文学部のひと

 

文学部とは、人が人について考える場所です。

ここでは、さまざまな人がさまざまな問題と取り組んでいます。

毎月ひとりずつ、「文学部のひと」をご紹介します。

編集部が投げかけた質問はきわめてシンプル、

ひとつは「今、あなたは何に夢中ですか?」、

そして、もうひとつは「それを、学生にどのように伝えていますか?」。

 

下田 正弘教授(インド哲学仏教学研究室)

第1の答え

いまごろになって、と思われるかもしれませんが、東洋と西洋の思想の違いを考えることに、すっかりはまっています。西洋思想の基層には、なにか結晶化した、無色透明な、静かなことばが析出されてくるようにおもうのですが、東洋の場合、思想の基層にあることばは、どこか複合した色を帯び、つねに微妙に運動している気がするのですね。

この異なった性質のことばから、つぎの層、さらにつぎの層とことばが生みだされ、重ねられて、思想はできてゆきます。こんなことをつらつら考えながら、むかし読んだ東西の古典を読みかえしているのですが、ここで見えてくる違いが、いま私にとっては、なんともおもしろい。日常のもやもやから解放されて、静かに瞑想する、そんな幸せな気分に浸っています。

 

第2の答え

テキストを一緒にじっくりと読む、です。まったく、なんの変哲もない回答で、すみません……。私がひとりで無条件に喜んでいることは、学生たちにとっても精神衛生上、悪くはないようでして、無理矢理だかなんだか分かりませんが、とりあえずは受け入れてくれています。

私が専門としているインド思想や仏教思想の分野では、思想はいったん西洋思想のことばを経由して理解されるようになりました。これはこれでよいのですが、ただ両者の基層のことばの相違に気がつかないままだと、インド思想や仏教思想の醸し出す、ある種の虚構性という、重要な特徴が消え失せてしまいます。これを保護するためには、テキストのことばを聞きつづけながら、自分のなかで起こることばの変化を観察する。それに尽きる気がしています。

 


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