文学部のひと

 

文学部とは、人が人について考える場所です。

ここでは、さまざまな人がさまざまな問題に取り組んでいます。

その多様性あふれる世界を、「文学部のひと」として、随時ご紹介します。

編集部が投げかけた質問はきわめてシンプル、

ひとつは「今、あなたは何に夢中ですか?」、

そして、もうひとつは「それを、学生にどのように伝えていますか?」。

 

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横澤 一彦 教授(心理学研究室)

第1の答え

専門である認知心理学は、人間の行動を実験的に観察して分析する学問です。あまり複雑な行動ではなく、日常の一瞬に、どのような行動が可能かということに興味を持っています。一瞬という時間単位は、仏典にはあるらしいのですが、心理学的に厳密に決まった時間単位があるわけではありません。例えば0.5秒という一瞬で、見たり、聞いたりしたときの感覚情報が脳内のほぼ全領野に伝わり、相当高度な判断して、存否、命名、好悪、美醜などに関する選択反応を完了することも可能です。しかも、五感それぞれに与える情報がくい違うような仕掛けをした実験を行っても、見事につじつまを合わせて、次の行動につながるような適切な解答を導き出すことができます。いわば、短時間でこのような巧妙な情報処理を可能にしている仕組みを調べ上げることに夢中です。適切な解答というのは、必ずしも厳密な解答というわけではない点が人間らしくて面白いのです。心理実験をすれば、人間がいかに多くの情報を、見落とし、聞き落とししているのかが分かりますが、日常生活では必要十分な情報を選択的に取り入れることが可能なために、そのような不備に気づかないし、そもそも日常生活に不要ならば、厳密な解答を出せない不備な仕組みが、効率的で最適な仕組みであるかもしれないのです。

 

第2の答え

認知心理学は、大きな括りで考えれば、脳科学の一分野でもあるのですが、その中で認知心理学が果たすべき役割を伝えるようにしています。よく知られた例え話があって、文字を持たない宇宙人が、地球にある本という存在に興味を持って、自分の星に本を持ち帰り、パルプとインクの成分や割合など、本の成分や構造について様々な科学的分析をしても、本とは何物かが最後まで分からなかったという話なのですが、その宇宙人は何をすべきだったかというと、本を読むという人間の行動を観察し分析する必要があり、丁寧に人間の読書行動を調べない限り、本の存在価値を理解することは困難なのです。脳科学において、脳の構造としての神経細胞のネットワークを科学的に分析することはもちろん重要ですが、人間の行動観察を担当する認知心理学の重要性も色褪せるものではないはずです。

人間の行動を観察すれば良いので、誰にでも実験することができ、実験をすれば、すぐに実験データが得られると思われるかもしれません。ただし、実験データの再現性がなければ、科学的な分析にはつながりません。様々な個性を持っている方々に協力して頂く心理実験において、再現性の高い実験結果が得られるような実験計画を組み立てるために考え抜かれた心理学研究法の基本を学んでもらう重要性も伝えるようにしています。

 

横澤 一彦:
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