現在、研究室の専任教員は7名で、古代(大津透)・中世(高橋典幸・三枝暁子)・近世(牧原成征・村和明)・近現代(野島[加藤]陽子・鈴木淳)の各時代を担当している。政治・経済・社会・対外関係・文化・史料論などの諸分野をカバーするバランスのとれた構成であり、時代の枠を超えて積極的に発言しあう気風をもっている。
教 授 野島(加藤) 陽子
日本史学のなかでの専門領域は近現代政治史で、外交と軍事の両面から近代日本の特質を研究している。第一次世界大戦から太平洋戦争にいたるまでの日本をとりまく国際環境や国際秩序はいかなるものであったのか、また国内政治において大きな影響力をもった陸軍はいかにしてその政治力を拡大させたのか、戦争の世紀=20世紀前半の日本を、内と外から考えている。具体的には、アメリカによる秩序形成と日本の関係、戦争の形態が変容したことによる政治と統帥両者の関係の変化に着目している。外交の中の軍事、軍事の中の外交という切り口を念頭に置きながら史料を読み、『模索する1930年代―日米関係と陸軍中堅層―』(山川出版社)、『徴兵制と近代日本―1868-1945―』(吉川弘文館)、『戦争の日本近現代史』(講談社現代新書)などを著した。今後は、パリ講和会議と日本の外交、近衛新体制と対中政策についても、研究を広げたい。
教 授 大津 透
専門は、日本古代史で、特に律令法や国家財政を研究の中心とし、日本古代の律令制を東アジア世界の中で位置付けることを目的とし、あわせて日本固有の部分を明らかにすることにより古代天皇制の特質を剔刔することをめざしている。また平安時代に律令制が展開するという視点から、藤原道長に代表される摂関政治期の国制の基礎的研究をすすめ、この時代のいわゆる王朝文化についても中国文化の受容定着という点から再評価している。唐律令制の研究の一環として龍谷大学所蔵のトルファン将来の大谷文書の復原研究もすすめており、東洋史研究・敦煌吐魯番学にも貢献している。
教 授 鈴木 淳
専門は日本近代史、とりわけ明治時代の社会経済史である。学生・助手時代には機械工業を研究し、課程博士論文を『明治の機械工業―その生成と展開―』(ミネルヴァ書房)として刊行した。その後、駒場で教養教育にあたりながら、技術や制度の導入を軸により幅広く近代史を叙述することを試み、前期課程での授業内容を中心にした『日本の近代15 新技術の社会誌』(中公文庫)と『日本の歴史20 維新の構想と展開』(講談社学術文庫)、そして対象をしぼった『町火消たちの近代―東京の消防史―』(吉川弘文館)といった概説的な本を書いている。
教授 高橋 典幸
日本中世史を専門としている。なかでも武家政権の歴史および朝廷をも含んだ政治権力総体に占める武家政権の位置づけに関心がある。その一環として武家政権の組織に注目し、鎌倉幕府の御家人制について軍事的側面からその特質にアプローチした。その成果は『鎌倉幕府軍制と御家人制』(吉川弘文館)にまとめた。なお、鎌倉幕府の歴史を論ずるに際しては、『吾妻鏡』は必須の史料であるが、『吾妻鏡』そのものも検討対象であり、『平家物語』や他の同時代史料と比較検討しつつ、その分析を進めているところでもある。また、近年は社会的・地域的側面にも関心を広げ、続く室町幕府の成立過程・特質も検討課題とし、13世紀後半のモンゴル襲来から14世紀末にいたる南北朝期を一貫する歴史叙述の構築をめざしている。
教授 牧原 成征
日本近世史を専攻している。時期的にはとくに中世末から近世前期にかけての社会の変容に関心がある。地域やテーマとしては、信州・近江・関東等の村落構造や土地制度、兵農分離のプロセスや奉公人の問題、商人やその仲間、流通・交通、かわた等の身分とその集団などを検討しており、講義ではそれらの一端を提示・紹介する。演習では、都道府県域など、ある一定の地域をとりあげ、そこに残された古文書等を用いて、史料批判や読解、論点の発見や展開の方法などについて議論する。著書に『近世の土地制度と在地社会』(東京大学出版会)がある。
教授 三枝 暁子
日本中世史を専門としている。主に京都の寺社史料を素材として、寺院社会および都市社会の構造について分析をすすめている。具体的には、中世の「寺社勢力」を代表する位置にあった比叡山延暦寺、およびその末社の史料を分析しながら、13世紀以降に進展する寺社の都市支配や集団編成等について検討している。その成果の一端を、『比叡山と室町幕府―寺社と武家の京都支配―』(東京大学出版会)にまとめている。また近年は、寺社による都市支配が衰退して以降の都市社会構造にも関心をひろげ、とくに豊臣政権期前後の都市共同体論・社会集団論の検討をも進めている。
准教授 村 和明
日本近世史を専攻している。天皇・朝廷、近年は豪商三井家をも分析対象とし、権力構造の変遷や大組織の制度化過程の特質などについて検討している。これらを後世の歴史編纂や史料論・アーカイブズ論などと関連づけたいとも考えている。時期的には、現在17世紀半ばから18世紀までにもっとも関心がある。講義では、皇位継承・上皇・女帝などに焦点をあて、近世の朝廷の歴史を、史料を提示しながら概説する。演習では、政治史に関する込み入った史料の正確な読解を目指す。著書に『近世の朝廷制度と朝幕関係』(東京大学出版会)がある。