学部長挨拶 

 

駒場での二年間の前期課程を終えて文学部に進学された皆さん、

学士入学試験に合格し、これから新たに文学部で学ばれる皆さん、

文学部教職員一同とともに、皆さんを心より歓迎いたします。

 

本来ならば、皆さんに向かってじかにこの歓迎の辞を述べさせていただくところですが、ご存じのように、先月11日東北地方太平洋岸を襲った未曾有の地震の余震がいまだに止まず、福島の原子力発電所の混乱が長期化の様相を見せるなか、安全上の配慮からやむを得ず、大勢が一同に会する通常のガイダンスを中止することにしました。私の挨拶もこのような書面の形になることをどうかご了解ください。

震災による行方不明者が今なお多数あり、被災者の多くが不自由な避難所生活を続ける一方、原発の放射能漏れの情報が時時刻刻伝えられる状況では、あるいは勉学に集中しにくいこともあるかもしれません。被災者の窮状に照らして、無力感や後ろめたさにとらわれるかもしれません。しかし、ここはぜひ平常心を失わず、文学部での勉学を開始していただきたいと思います。そうすることが、つまるところ、被災した人々に活気をもたらすことにもつながるはずです。

文学部での勉学がこれまでのそれと最も異なるのは、おそらく自由度でしょう。皆さんは文学部にある二七の専修課程のどれかに所属し、そこの授業を中心に履修するわけですが、文学部では必修科目と選択科目の比重がほぼ同じです。したがって各自の関心に即して、所属専修課程の授業のみですべての単位を満たすことも、あるいは選択科目の全部を所属専修課程以外の授業に充てることも可能です。後者の場合、所属専修課程につぐ第二の関心分野があれば、それを副専攻とするような履修プランを立てることが可能ですし、逆に、広く浅くさまざまなトピックに接することを好むなら、それも可能です。要は、知的好奇心を貪欲に働かせ、自分の関心を見極めながら、最も適した履修プログラムを自ら編成することです。自由は主体性を要請します。

文学部のもうひとつの特色は、授業の規模です。演習に重点を置く文学部の授業編成は総じて小人数で、教師と学生の間の、あるいは学生相互の、密なコミュニケーションが成立しやすい環境です。

このような文学部のメリットを存分に活用し、これまで皆さんを規定してきた点数主義を早く脱してください。与えられるものを消化するだけの受動的勉強から、自分の関心に即して自発的に探求する積極的勉学に切り替えてください。そして文学部で過ごす二年間が、知識とスキルの習得を通して、ものごとを多面的に深く見る眼を養い、皆さんを人間的に大きく逞しく成長させる時間となることを期待しています。

 

 

2011年4月5日

文学部長  中地 義和