祝 富永健一氏 文化功労者に選出される。 本研究科名誉教授 富永健一氏が文化功労者に選ばれました。 2008年10月31日


富永健一名誉教授は、昭和30年3月文学部社会学科を卒業、さらに大学院社会学研究科の修士課程、博士課程へと進み、昭和34年9月に社会学科助手に就任したあと、専任講師、助教授、教授として平成4月3月に60歳で定年退官されるまで、文学部において社会学の研究と教育に携わってこられました。その後も、慶應義塾大学環境情報学部教授、武蔵工業大学環境情報教授を歴任、平成8年には紫綬褒章を受章されています。
富永健一先生の研究活動は多岐にわたり、戦後日本の社会学の発展において理論および実証の両面で果たした役割はきわめて大きいものがありますが、その中で、今回の文化功労者に選出された理由に挙げられている二つの研究分野、近代化と社会変動の理論および社会階層研究とがやはり特筆されるべきでしょう。
戦後から高度経済成長期にかけて、同時期の他の先進諸国と同様に、日本の社会科学における最大の争点はマルクス主義か否かでしたが、富永健一先生は『社会変動の理論』(昭和40年)によって、当時、欧米の社会科学者たちが議論しはじめていた「インダストリアリズム」の概念を基盤として、マルクス主義にとって代わる新しい社会変動理論を独自に展開しました。この理論はその後もさらに彫琢されて、一方では構造機能主義に基づく社会変動の一般理論へと発展するとともに、他方では、日本の近代化過程についての先生独自の理論的構成(『日本の近代化と社会変動』平成2年)へと結実しています。
また、階層構造の開放性や平等性の度合いを実証的に明らかにし、国際比較と時代変化の考察を通じて社会階層と階級についての理論を深めていくことも、戦後各国の社会学にとって重要な課題でしたが、富永健一先生は1955年のSSM調査以来、日本の階層研究を国際的水準に発展させる上で比類のない功績を残されています。とくに、多くの若手研究者を組織して研究リーダーとして取り組んだ1975年SSM調査研究は、分析手法の革新と独自理論の構築だけでなく、日本における階層研究者の育成と研究水準の発展に絶大な貢献をなしたといえます。しかも、富永健一先生の階層理論は、インダストリアリズムを軸とする階層構造の業績主義化論として展開されており、独自の社会変動の理論と厳密な実証的分析とをもとに階層理論を構築したような社会学者は、世界中で富永先生ただ一人といえるでしょう。
富永健一先生は現在77歳ですが、大学の教職を退かれた後もなおますます盛んに研究活動を続けられ、本年も、古典から今日までの社会学理論を精緻かつ含蓄深く考察した『思想としての社会学』という浩瀚な書物を出版されたばかりです。日本における社会学という学問の発展に対する強い責任感を抱き、しかもそれを着実に果たされ続けてきた、戦後日本の社会学を代表する研究者といって過言ではありません。