- 主催:文献資料研究部門調整班、地方志・碑記班
- 科学研究費補助金 基盤研究(B)「墓より見た中国宋代の社会構造」
- 参画:重点項目(イ)「寧波を中心とした記録保存の社会文化史」
- 重点項目(ロ)「寧紹地区の環境・生態と人間社会の営み」
- 日時:2009年1月10日(土) 10:00~17:30
- 会場:東京大学文学部1番大教室
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- プログラム:
- 【国際シンポジウム開催にあたって】(10:00~10:20)
- 総合司会:伊原 弘(いはら ひろし、城西国際大学)
- 挨 拶:小島 毅(こじま つよし、東京大学):領域代表
- 平田茂樹(ひらた しげき、大阪市立大学):文献資料研究部門代表
- 趣旨説明:須江 隆(すえ たかし、日本大学)
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- 【第一部】「地方文献の史料的性格-寧紹地区を焦点として-」(10:20~12:30)
- 司会・講師紹介:遠藤隆俊(えんどう たかとし、高知大学)
- 報 告 1 :柳 立言(Nap-yin Lau、中央研究院歴史語言研究所、台湾)
- 「宋代明州(寧波)家族的研究」(「宋代寧波の家族の研究について」)
- コメント:岡 元司(おか もとし、広島大学)
- 報 告 2 :須江 隆(すえ たかし、日本大学)
- 「記録された言説と信仰-寧波の地方志と碑文を中心に-」
- コメント:二階堂善弘(にかいどう よしひろ、関西大学)
- 報 告 3 :Joseph Dennis(ジョセフ デニス、Davidson College、USA)
- “Historical Value of Local Gazetteers from the Superior Prefecture of Shaoxing”(「紹興府の地方志の歴史的価値」)
- コメント:松本浩一(まつもと こういち、筑波大学)
- 報 告 4 :高津 孝(たかつ たかし、鹿児島大学)
- 「天一閣研究-コレクションという欲望-」
- コメント:静永 健(しずなが たけし、九州大学)
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- 【第二部】「地方社会の変動と確信-地方志・碑石に記録された世界-」(13:40~15:20)
- 司 会・講師紹介:須江 隆(すえ たかし、日本大学)
- 報 告 5 :TJ Hinrichs(ティ・ジェ ヒンリクス、Cornell University、USA)
- 「宋時代における中央政権と慈善の伸張-王安石の薬方碑文について-」(“Extending Imperial Beneficence: Wang Anshi’s Engraving and Display of a Medical Text”)
- コメント:丸山 宏(まるやま ひろし、筑波大学)
- 報 告 6 :Anne Gerritsen(アンナ ヘリセン、Warwick University、GBR)
- “Representing the World of Ceramics Manufacture in Local Gazetteers” (「地方志に反映された磁器生産の世界」)
- コメント:山本英史(やまもと えいじ、慶應義塾大学)
- 報 告 7 :Alain Arrault(アラン アロー、Ecole francaise d'extreme-orient、FRA)
- “Analytic essay on the domestic statuary of central Hunan: The cult to divinities, parents, and masters”(「湖南中央部の土着彫像についての分析的評論-神々、先祖、師への崇拝-」)
- コメント:高津 孝(たかつ たかし、鹿児島大学)
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- 【第三部】「総合ディスカッション」 (15:30~17:30)
- 総合司会:伊原 弘(いはら ひろし、城西国際大学)
- ディスカッサント:八尾隆生(やお たかお、広島大学)
- 「比較史の視点から(ヴェトナム史)」
- ディスカッサント:師尾晶子(もろお あきこ、千葉商科大学)
- 「比較史の視点から(古代ギリシア碑文学)」
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- 参加人数:61名(うち特定領域構成員36名)
- 本国際シンポジウムは、中国東南沿海地方、特に寧波とその周辺における地方志や碑文などの地方文献の史料的性格や活用法、それら特殊史料によって浮き彫りとなるであろう当該地方の地域性・歴史性を明らかにすることを最大の目的とした。
- 文献資料研究部門では、東アジア海域交流研究における「文献資料の可能性」をめぐって、これまでに3回の国際シンポジウムを主催してきた。第1回は、文献資料学という方法論を追求することにより、東アジア海域世界の構造を解明するためには、どのような課題が考えられるのか、その問題について討論することを共通テーマとした。ついで第2回は、政治・制度史料における文献資料学の可能性を追求することを共通テーマとし、第3回は、思想・宗教、言語・文学、美術、出版文化、自然科学等の文化面での東アジア海域交流研究における「文献資料の可能性」について討議した。4回目となる本シンポジウムは、その問題意識を継承しつつも、これまでのシンポジウムではあまり焦点があてられなかった寧波とその周辺に着目し、そこに蓄積されてきた文献・準文献史料の史料性や活用法を討論し、それらの史料を通して見いだせる当該地方の地域性や歴史性の解明に迫ることを共通テーマとした。なおこの国際シンポジウムは、文献資料研究部門の主催であったが、その部門内の研究集会に留めるのではなく、本プロジェクトの共同研究というメリットを十二分に活用し、現地調査や比較史の視点から、あるいは本領域構成員以外の方々からも広く有効な提言を頂くことにより、文献資料研究の可能性と課題についても議論を深めようとする試みであった。
- さて、上記の趣旨のもと、三部構成からなる国際シンポジウムが開催され、総合司会は伊原弘氏が担当した。第一部及び第二部では、特定領域を主として構成するメンバーとほぼ同世代の海外からの招聘者5名(米国2名、台湾・英国・仏国各1名)を含む、7本の研究報告がなされた。個々の報告内容は、家譜の利用・リニージの再定義、地方志、民間信仰、窯業、医学史、書籍蒐集・保存など社会文化史に関連する研究が中心であり、それぞれに利用史資料の性質やそれらを用いた研究の可能性、研究対象とした地域や施設などに垣間見られる世界や特質に言及がなされた。またなるべく現地調査の経験が豊富な方々にコメントを付けてもらおうとした点にも、本シンポジウムの意図があった。これらの内容の詳細については、178頁からなる予稿集を刊行し、コメントペーパーとともに当日の配付資料として準備したので、そちらを参照して頂きたい。(残部有り)。
- 最後の第三部の総合討論では、議論を活発化させるために、まず「比較史の視点から」と題し、異なるフィールドを研究対象とするお二人の方々から発言を頂いた。ヴェトナム史を専門とする八尾隆生氏は、中国とヴェトナムとの国のサイズの問題(ヴェトナムは小さい)や、ヴェトナム前近代史における地方文献は、ほとんどが手書き本のみの世界である点、地域史研究は稿本の家譜に依存し、地方志の刊本は中部を除いては皆無の状況である点、碑文も録文集は存在するが、拓本集が近年ようやく刊行され出したという点に言及し、中国地域史研究とヴェトナム地域史研究の環境の違いを明確化してくれた。また古代ギリシア碑文学を専門とする師尾晶子氏は、古代ギリシア史研究では、文献史料のみではアテネ以外の地方史は書けず、碑文が不可欠である点、1980年代以降の碑文研究は、新事実の解明や旧来の学説を覆すなど役割が極めて大きかった点、断片に過ぎるモノ資料の扱いの難しさや碑文捏造の問題に触れ、碑文活用に関する意義や問題点を明らかにしてくれた。いずれも中国史研究において地方志・碑文等を利用するに際し、参考に資すべき示唆に富む貴重なコメントであり、参会者からも好評であった。
- 引き続き、会場から質問・意見等を頂いたが、その内容は史料性と地域性に関するものに二分された。史料性に関しては地方志についての発言が多数を占めた。例えば、地方志は編者の意図の表れであり、現地の実情を示したものではないとの見解が示された。但しこの見解については、地方志の有用性をもっと考えるべきであり、書写・記録された意味を問うことが大事であると報告者側から応答がなされた。また、地方志・地方文献の時系列的な特徴(時代性)はあるのか、言説は地方志・碑文以外の媒介物によっても形成されるのではないかという質問が出された。これらの質問については、報告者や会場から、宋代地方志の特異性に関する説明や明清時代の地方志は、宋代に比して出来が悪いというが、清の乾隆時代以降は、考証学の成果が盛り込まれた緻密なものが登場するなどの意見が示された。後者の質問に対しても、他に媒介物としては文集などが考えられ、地域史料という場合には、地方志・碑文以外のものについても総合的に考慮すべきことが確認された。
- 一方地域性については、寧波とその周辺というシンポジウムの趣旨からして、寧波の社会の特質が見えてくるはずなのに、その点が不十分ではないかという些か厳しい意見も出された。しかし反面、こうした意見が呈示された御陰で、今後の課題が鮮明になったのも事実である。寧波の特異性が、宋代の地方志が多く残存したように、他の地方に比して膨大な書籍群などの諸資料が蓄積され残されてきたところにあるとするならば、かかる現象が何故起こったのかという視点を鮮明に出すことが不可欠であるし、そうした意味では、矢張り「天一閣」や「四明叢書」研究が柱になるかもしれない。なおその他に地域性に関しては、寧波をめぐる社会を考える上で、仏教文化という要素を重視すべきであるが、今回のシンポジウムでは取り上げられていなかった、寧波の仏教文化と日本との関係については、記録が抹殺された可能性があるのではないか、宗教に関しては、地域間モデルの構築の必要性を痛感した等の意見も出された。
- 第三部で議論された事柄は、いずれも今後の研究に資するものであり、第一部及び第二部の報告・コメントとともに、充実した国際シンポジウムを実現させることができた。本国際シンポジウムにご協力いただいた報告者・コメンテーター・ディスカッサントの方々、そしてお忙しい中ご来場いただいた全ての方々に対し、改めて感謝を捧げたい。
(文責:須江 隆)
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