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第16回アジア数学史セミナー
数学班主催

2006 年 7 月 6 日(木) --- 123 号室, 17:00 -- 18:30

斎藤 憲(大阪府立大学人間社会学部)

ユークリッドをめぐる最新の研究動向

ギリシア数学史は1970年代に始まった見直しによって,大きな変容をとげた分野である.残念ながら,一般読者向けの解説記事などでは,その著者が最近の研究動向を把握していないことが多く,19世紀末から20世紀前半の定説が繰り返され,とっくに否定された俗説が再生産されている.

従来の定説は以下のようにまとめられよう.

1)ギリシアの論証数学の起源については「タレス-ピュタゴラス起源説」をとる.
2)初期の発展を非共測量(無理量)の発見によって,数値を用いる代数的数学が,表面的に幾何学に書き換えられたという「非共測量史観」をとり,ユークリッド『原論』にこの書き換えの痕跡を求める.
3)したがって,ギリシア数学の本質は近代以降の数学と同じく代数的なものであり,単にその表現が異なるだけということになる.

しかし現在では大多数の研究者はこのような見方全体に否定的で ある.ここに至る過去30年間の経緯をまず説明する.

最近の研究者の関心はむしろ,『原論』の成立以降の,テクストの編集・校訂や伝承に向かっている.実は我々が所持している『原論』の写本はかなり大幅な編集を経たものであるが,その編集過程は十分に知られていない.

一言で言えば,この30年で研究者は,同じ『原論』を前にしてユークリッド以前の,はるかな過去に関する想像に耽ることをやめ,ユークリッド以降の,現存写本が成立するまでのプロセスの探求を始めたのである.

また,現在のすべての翻訳の基礎となっている19世紀の校訂版が,図版に関しては写本を無視して「数学的に正しく一般性のある図版」を創作し掲載していることが指摘され,写本の図版が新たな研究対象となっている.

本日の報告の後半では,このような最新の研究動向を紹介し,構築されつつある新たなギリシア数学史像を提示したい.

http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~kawazumi/asia.html
 
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