研究内容

 ■対象言語

よく知られているように、インドは世界の四大文明の一つ、インダス文明発祥の地です。
紀元前2000年期のインダス文明については、文字の解読を含めいまだ多くのことが
明らかにはなっていませんが、前1000年期の文学であるヴェーダはかなり正確に伝わって
きています。
つまり、インドを対象とする学問は、3000年をはるかに超える時代を含むことになります。

ただし、ここで言うインドとは、今日の「インド共和国」ではなく、インド文化が栄えた
地域つまり、時代によっては周辺のバングラデシュ、プータン、ネパール、パキスタンも
含めた地域でこのような場合、「南アジア」とか「インド亜大陸」と呼ぶことがあります。

このインド亜大陸の長い歴史の間には、インドアーリア語系やドラヴィダ語系などの、おそらく
数千におよぶ言語が生じては消えていったと思われますが、現在のインド国内だけでも
数百におよぶ言語があり、公用語だけでも22にもなります。

それらの言語のなかで、われわれの研究室で対象にしているのは、現在のところ
サンスクリット語とタミル語です。
 
サンスクリット語は「その古さはどうであろうとも、驚嘆すべき構造をもっている。
それはギリシャ語よりも完全であり、ラテン語よりも豊かであり、そのいずれにもまして
洗練されている。」

これは、しばしば言語学の創始者と呼ばれるウィリアム・ジョーンズ(1746〜1794)が、
のちに印欧語族確立の礎となる講演で述べた言葉です。

この言葉のとおり、サンスクリット語はインドの雅語として古典時代の宗教、文学、哲学、
科学など、あらゆる分野で用いられたもので、インド文化の精華はサンスクリット語によって
伝えられてきたといっても過言ではありません。

タミル語は、インドアーリア系の言語にたいして、ドラヴィダ系(現在インド総人口の25%を占める)
の代表的な言語です。サンスクリット語を除くと、紀元前に遡る時代から現在までの文献をもった
生きた言語は、インドではタミル語だけです。そのため、タミル語は、サンスクリット語とならんで
「インドの古典語」とされています。

  
 ■当研究室で目指すもの

インド語インド文学研究室では、インド文化の形成と発展にもっとも重要な役割を果たしてきた
これらの言語を学びながら原典研究を行い、あくまで文献にそくして、広くアジア諸地域に
伝播してゆくインド文化の精髄を探求することを目指しています。

ただし、ここで言う文献とは、研究室名にはインド文学と冠していますが、詩歌・戯曲・説話などの
狭義の文学作品だけでなく、ヴェーダ聖典、あるいはマヌ法典・実利論などの学術論書、
さらには仏教・ジャイナ教・ヒンドゥー教などの宗教文献、その他も含んでいます。

語学の習得と原典講読にはそれなりに時間を要しますから、これら膨大な文献を読みつつ
文化を理解しようとするのは、一見迂遠な方法に思えるかもしれません。しかし、広く浅く、
場当たり的に多くの書物を読んでも得られるものは少なく、ややもすると、大学という学問の場に
いながら、学問するというかけがえのない経験をせずに大学を去ることにもなります。
異文化理解にしろ自文化理解にしろ、一朝一夕でできるものではありません。むしろそれらは、
辞書を繰りつつ原典に向かい、個々の単語や行間に思いをはせるという、日々の地道な努力に
よって可能になるのです。


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