主旨:

 21世紀最初のIAHR世界大会が日本で開かれることになったのはたいへん喜ばしいことだ。この大会がIAHRの歴史に新しい次元を切りひらくようなものとなることを願いたい。

 だが、IAHR世界大会は5年に1度しか開かれないので、この会議に何度も参加している参加者は少ない。そこでこの座談会では、長い期間にわたってIAHRと深い関わりをもって来られた方々にIAHRの歴史を振り返っていただき、今大会の意義を問い直す機会としたい。しかし、IAHRの歴史と言ってもたいへん広い範囲にわたるので、ここでは焦点を日本との関わりという点にしぼることとした。

 日本宗教学会には2000人を越える会員がいることからもわかるが、日本は宗教研究がたいへん盛んである。神道、仏教、キリスト教、新宗教、道教、民俗宗教と日本国内の伝統に関わる宗教だけでもさまざまであり、神学や教学の立場からの研究や哲学的・思想史的な研究と並んで、あるいはそれ以上に、批判的経験的研究や比較を重んじるタイプの宗教研究が盛んである。1958年に次いで2回目の大会が日本で開かれるに至ったのは、このような事情が反映しているだろう。

 また、キリスト教が圧倒的に多数派である西洋社会が近代的な学問を育ててきたために、これまでの宗教学はどうしてもキリスト教的な宗教観の影響が濃厚になりがちだった。確かに、西洋中心的な見方を脱する努力は宗教学の課題として強く自覚されてきたが、今日では、多元的な世界の文化をさらに如実に反映した、複眼的複合的な宗教研究の発展が望まれる時代となっている。日本の宗教研究はそうした動向にどのように関わってきただろうか。この問いは、IAHRの歴史において日本がどのような位置を占めてきたかという問いから迫っていくことができるだろう。

 「宗教――相克と平和」というテーマは2001年のアメリカでの同時多発テロが起こったことによって浮上したものである。だが、世界の宗教研究者が以前からこうしたテーマについて考察して来なかったとしたら、それが世界大会のテーマとなることもなかっただろう。第二次世界大戦の敗戦国であり、平和憲法をもつ日本でこのテーマが論じられることは意義深い。では、「IAHRと日本」という観点から見て、「宗教――相克と平和」というテーマはどのようにとらえられるだろうか。

 この座談会では、以上のようなテーマにつき、長期にわたってIAHRに関わってこられた研究者の方々に語り合っていただく。



日時:

3月27日(日) 20:00−21:30


出席者:

ツヴィ・ワーブロフスキー (Hebrew University of Jerusalem)
マイケル・パイ (University of Marburg / Otani University)
ローレンス・サリヴァン (University of Notre Dame )
荒木美智雄 (国士舘大学)
中村廣治郎(桜美林大学)

司会:
田丸徳善(東京大学)