宗教と文明間の対話
ブラジルの挑戦
マリア=クララ・ルシェッティ=ビンジェメール(リオ・デ・ジャネイロ・カトリック大学、ブラジル)

日時:
3月24日(木)13:30〜17:30

主旨:
本発表の目的は、諸宗教が互いを尊重しあって共存し、対話のなかで成長するとは具体的にどういうことなのか、ブラジルの宗教状況を事例に考察することである。ブラジルにはさまざまな宗教的実践、また制度化されたものとされていないもの両方にわたる多様な宗教形態、あるいは自由闊達なシンクレティズム等が見られるため、このような議題のもとでなんらか意味あることを言おうとすれば、議論の焦点を絞りこまないわけにはいかないだろう。そこで本発表ではローマ・カトリックと、アフリカ系ブラジル人の宗教伝統との間の友好関係に議論を集中させたいと思う。

ブラジルに今も残るアフリカ起源の宗教崇拝/教団(カルト)は、アフリカ系ブラジル人が今でもアフリカ文化に結びつけられていることを明瞭に示すものの一つである。こうした結びつきが今も可能なのは、それらの宗教がブラジルという環境に適応する際に発揮した柔軟性のおかげである。つまりそれらは、儀礼を簡略化し、聖職者の役割を最小化し、さらには神々に新たな装いをすら与えたのである。そしてより重要なのは、これらの崇拝/教団(カルト)が、明らかにアフリカ的なその内実を、社会=歴史的にみればかなり異質なブラジルの状況に合わせて調整し、そこに習合させてきたことである。その結果として生まれたのは、なんらかアフリカ的性質(「アフリカ性africanidade」)をもつ新たな黒人アイデンティティであった。このようにアフリカ系ブラジル人はブラジル文化に適応し、また明らかに影響を与えてもいるのだが、それでも、肌の色はいまだ障壁となっている。つまり肌の色は、彼らが異なる人種を祖先にもつことだけでなく、彼らを最初にこの国に連れてきたのが奴隷貿易であったことをも想起させるのだ。

ブラジルのキリスト教文化(主としてカトリック)とアフリカ系ブラジル人の宗教が互いに出会うのは、こうした背景のもとにおいてである。ここにあるのは、ただ単に平和共存の道を探ることではなく、実質的に異なる文明の間で新たな対話を開始するという課題である。本発表ではこの課題を果敢にすすめる数多くの試みに焦点を当て、それと同時に排他主義と暴力によって引き起こされる苦難を明らかにする。そして結論としては、異なる文明を背景とした諸宗教にとって開かれている、対話へと至る道をいくつか示す。それはすなわち、耳を傾けること(listening)、相互に変化すること(interchange)、そしてスピリチュアリティである。


マリア=クララ・ビンジェメール(Maria Clara Lucchetti Bingemer)

リオデジャネイロ・カトリック大学神学部助教授。同大学神学人文科学センター長。ローマのグレゴリアーナ大学で神学を修め、1989年、博士号を取得。カトリック神学に精通するとともに、イグナチウス・デ・ロヨラの霊性や現代の宗教思想家であるエディット・シュタイン、シモーヌ・ヴェイユらの著作をながく研究してきた。それにもとづいて、現代ブラジルおよび全世界の霊的・宗教的状況についての考察を深めている。ブラジルおよびラテンアメリカ諸国で広く講演、講義を行っているほか、神秘主義、フェミニズム、宗教多元論といった領域にかんして多くの著述を発表している。

ビンジェメール教授は、おもにポルトガル語と英語で50冊を越える著書、数百に上る論文や学問的エッセイを発表しているが、ここでは以下のものを挙げておく。Em Tudo Amar e Servir [すべてに愛と奉仕を] (Saõ Paolo, Loyola, 1990), O Segredo Feminino do Mistério [秘義に秘められた女性的なるもの] (Petrololis, Vozes, 1991), Alteridade e Vulnerabilidade. Experiencia de Deus e Pluralismo Religioso no Moderno Em Crise[他者性と傷つきやすさ:危機に立つ現代における神経験と宗教多元主義] SaõSao Paolo, Loyola, 1993), Deus-amor: graça que habita em nós[愛の神:我らの裡にすまう恩寵] (Saõ/Valencia, Paulinas / Siquem, 2003), and A argila e o espírito: Ensaios sobre ética, mística e gênero[粘土と霊:倫理、神秘主義、ジェンダーをめぐる論集] (Rio de Janeiro, Garamond, 2004).