宗教戦争、テロリズム、そして平和
マーク・ユルゲンスマイヤー(カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校、米国)

日時:
3月25日(金)9:00〜10:30

主旨:
宗教によって導かれるのは戦争か平和か。宗教の擁護者たちは通常、宗教を平和の使者とみなす。しかし、どうすれば宗教が平和に貢献できるのかを考える前に、われわれは宗教が戦争において果たす役割についても見据えておかねばならない。近年の宗教テロリズムの活動のほとんどは、善と悪との壮大な闘いといったような、この世を超越したコズミック・ウォーの一部として繰り広げられている。これはなにも、ジハード(聖戦)を信じるムスリム活動家らだけに当てはまることではない。アメリカのキリスト教過激派、イスラエルのユダヤ教活動家、東京の地下鉄に神経性ガスを撒き散らしたオウム真理教のメンバーたち、この人たちにも当てはまる。コズミック・ウォーを信じる者たちにとってその戦争は、霊的/精神的(スピリチュアル)な次元だけにとどまるものではなく、今まさにこの世においても闘われているのである。悪の勢力の権化とされるのはたいてい、西洋化、グローバル化、わけてもジョージ・ブッシュとアメリカ政府である。同時に、こうしたコズミック・ウォーの動きを目の敵とするアメリカの「テロとの戦い」や、イラクへの侵攻・侵略もまた、宗教的熱情をともなって遂行されてきた。何故、宗教と戦争行為は歩みを同じくすることが多いのだろうか。戦争はずっと宗教的な想像にはつきものであったし、歴史や神話の中に宗教戦争のイメージを含まない宗教伝統は存在しない。私の考えでは、善と悪、秩序と無秩序といった大問題を宗教が解決しようとするかたちのひとつが、戦争のイメージなのである。このように、究極的には、戦争のイメージは究極の秩序と調和のイメージへとつながっていく。どうすればコズミック・ウォーを精神的な次元に押し戻すことができるのか。現実の紛争のただ中にある宗教が、どうすれば秩序と赦しと平和の使者となりうるのか。この時代を生きる我々に突きつけられた難問である。

マーク・ユルゲンスマイヤー(Mark JUERGENSMEYER)

カリフォルニア大学サンタバーバラ校、グローバル・国際研究主幹、社会学、宗教学教授。専門は、宗教暴力、紛争解決、南アジアの宗教と政治。これまで200本以上の論文と15冊の単著を発表している。広く読まれている著作 Terror in the Mind of God: The Global Rise of Religious Violence (University of California Press, revised edition 2003; 邦訳『グローバル時代の宗教とテロリズム』[明石書店、2003]) は、世界各地の暴力的な宗教活動家らとのインタヴューを基に書かれた。以前の著作 The New Cold War? Religious Nationalism Confronts the Secular State (University of California Press 1993; 邦訳『ナショナリズムの世俗性と宗教性』[玉川大学出版部、1995]) では、宗教的活動主義が台頭し、世俗的近代性と衝突する様を描いた。ガンディー主義的な紛争解決に関する著作は Gandhi's Way (University of California Press, rev. ed. 2005) として再版されている。編著としては Global Religions (Oxford University Press, 2003)、Religion and Global Civil Society (Oxford University Press, 2005) などがある。近年は、宗教と戦争についての著作に取りくむ一方、グローバル宗教百科事典、宗教と暴力に関するアンソロジー等の共同編者を務める。