[3月26日(土) 17:30−22:00]

企画:鎌田東二(京都造形芸術大学)


(1) 大重潤一郎監督作品・映画「久高オデッセイ」 (17:30-19:10)
Film "An Odyssey in Kudaka Island"

【大重潤一郎プロフィール】
1946年鹿児島県生まれ。岩波映画の助監督となり、ドキュメンタリーを学ぶ。1970年に岩波の仲間達と自主制作で劇映画「黒神」を完成、ホールを借りて全国で自主上映する。この上映の拠点のひとつであった神戸に転居し、地方自治体の反公害映画やテレビドキュメンタリーなどを制作。76年から東京で制作会社経営に専念する。90年代に神戸に戻るが、95年、阪神淡路大震災に遭遇、その惨状を身をもって体験する。そこで得た経験から、自然に対する畏敬の念が益々深まり、映画作りへの意欲を燃やす。沖縄の自然をテーマとした「光りの島」を皮切りに、自然の中における人間の位置を、常に自然の側から問いかける作品を作り続けている。

2003年ベルリン国際映画祭に「小川プロ訪問記」(大島渚・小川紳介出演、1981年)正式招待。2002年に沖縄映像文化研究所を設立、理事長に就任。2004年、沖縄県より「美(ちゅ)ら島大使」の任命を受ける。その後、神の島と呼ばれる久高島(沖縄県知念村)を舞台とした映画「久高オデッセイ」を制作。本上映会が初上映となる。

【映画「久高オデッセイ」主旨】
自然万物を神の宿るものとして畏れ敬ってきた古来の精神が希薄になる中、唯一、沖縄久高島は神の島として孤高を保ってきた。

いまだに土地の私有制を容れず、地割制によって島の10分の1ほどの居住地域を分けあい、自然と共存してきた祖先達の叡智に従い、島人たちはあくまでも魂を軸にした島共同体の再生を目指し、伝統文化を堅持しようと努めてきた。ところが近年急速に風土と文化が荒廃し、人々の生きる力も停滞し、今にも島人の生活は時代のラストランナーになる様相を呈している。

12年に一度おこなわれてきたイザイホーも絶えて26年。

沖縄の祭祀世界を記録写真に残し続けた比嘉康雄氏の遺言とも言うべきドキュメンタリー映像「原郷ニライカナイへ」を撮った大重監督と沖縄映像文化研究所は、氏の貴重な仕事を途絶えさせるにしのびなく、2002年1月から久高島に住み、生活者の目で日常生活の映像記録を開始した。そこで、時代の波に取り残されたように見えた久高島には、イザイホーを支えてきた年中行事がかろうじて健在であり、祖先代々の力が、あたかも岩盤の下の地下水脈のごとく息づいている事を確認した。島の再生に全力で取組む島人の現在の姿は、まさに自然環境を再認識する時代の中で、今やトップランナーへと変貌しようとしている。これは現代に希望と励ましを与えるものであろう。


(2)シンポジウム「伝統文化・先住民文化の危機と現代人の霊性」 (20:30-22:00)
Symposium: Crisis of Indigenous Culture and Contemporary Spirituality

パネリスト:
大重潤一郎(映画監督)
鎌田東二(京都造形芸術大学)
宮内勝典(作家)
ジェイコブ・オルポナ(カリフォルニア大学ディヴィス校)
オーレン・リアンズ(北米先住民ホデノショニ長老・国連環境計画先住民委員)
司会:
阿部珠理(立教大学)

【シンポジウム主旨】
映画「久高オデッセイ」は日本の沖縄の小さな島で、伝統的な宗教の核の一つであった祭が行われなくなった後の島の精神文化を描こうとしたものである。この作品を踏まえて、このシンポジウムでは、現代の世界で伝統的な宗教や文化が解体の危機に瀕している状態をどう受けとめるのか、また伝統的な宗教や文化が伝えてきたものを現代生活の中に継承し、あるいは蘇らせることは可能なのか。それはどのようにしてなのか、どのような困難があるのかといった問題を、ともに考えていきたい。アフリカと北米と日本の南島が例となるが、それは現代世界に生きる多くの人々が取り組んでいる問題とも重なるものではないだろうか。