「ガズワ」に備えて―9・11の襲撃者のためのスピリチュアル・マニュアル
Preparing for a ghazwa: The Spritual Manual of the Attackers of 9/11
ハンス・G・キッペンベルク (University of Bremen)

[ 3月27日(日) 20:00−21:30]

 9・11の襲撃を実行した四つのグループの内の三つについて、「スピリチュアル・マニュアル」が発見された。FBIによって公表されたこの文書に対しては、疑念が広まった。更なる綿密な調査によっても、その真相を確かめることはできない。

 そのマニュアルは、襲撃を「ガズワ」(ghazwa)―イスラームの歴史から知られているような襲撃の類型―として意味付けるものであった。マニュアルは、襲撃を三つの段階に区分していた。襲撃前夜に、信仰で結ばれた同胞たちは「死を共にし、決意を新たにする忠誠の誓い」を立てた。夜間の朗誦と儀式と浄化が、若者たちを戦闘的英雄へと変えるのだ。空港での第二「段階」は、西洋文明によって支配された世界において承認されざる戦士たちが必要とする、保護の問題に関わるものである。彼らの勇気は、卓越した力の実質的な証しとなる。最後に、機内での第三段階は、襲撃の実行者たちが殉教者となれるように祈り、彼らが犯す殺人を犠牲として意味付けるものである。

 似たような考え方は、若いムスリムたちが自らの生命を犠牲にして襲撃を行った80年代のレバノンの例からすでに知られている。イスラームの知識人たちによると、彼らは西洋文明を凌駕する力を証明するために、友人たちの中にある西洋文明に対する恐怖を煽り立てた。9・11との類似性は、信仰に燃える若者たちから成る複数の小単位という組織のあり方にも当てはまる。新たなる邪悪な「ジャーヒリーヤ」(jahiliyya)によって支配された世界ないしは時代にあって、忠実な信徒たちだけが、真の信仰者たちの共同体に加わり、イスラーム的秩序の回復のために戦うことによって、救済のチャンスを保持することができるのである。

 本講演において私が主張したいのは、犯罪的行為に対する私たちの倫理的非難にも関わらず、私たちは襲撃者たちが自らの行為に与えた意味に注意を向けるべきだということである。その理由は二つある。第一に、そうすることで、暴力を許容し批判的検討を要するようなイスラーム史の構造に光を投げかけることができるからである。そして第二に、そうすることで、宗教的な観念や制度を若者たちによる実践へと変えるイスラームの社会の形態が、私たちにとって認識可能なものとなるからである。私たちが必要とするのは、合衆国による「テロに対する戦争」以上のものだ。私たちが必要とするのは、あのような残忍な行為を可能にした言説や社会構造についての批判的な考察なのである。