日時:
3月24日(木) 13:30〜17:30

主旨:

21世紀の始まりの年、2001年の9月11日に起こったアメリカの同時多発テロ事件は、人類の未来に暗い影を投げかけるものだった。この事件が冷戦の時代以後の世界の紛争が「文明の衝突」の様相を呈しつつあることの現れだという理解もさかんに語られた。イスラム文明とキリスト教文明の間の対立が深刻な事態に至っているという見方だけでなく、儒教文明やヒンドゥー文明やスラブ文明やアフリカ文明というものがあり、それら諸文明の間でも潜在的に緊張関係があり、グローバル化する社会で大きな紛争や対立の要因となると考える人々もいる。

文明と宗教とは密接に関係しあっている。諸文明の間の衝突は諸宗教の間の衝突と見なすこともできるだろう。事実、世界の諸地域において、宗教を異にする住民同士が暴力的に争いあう機会が増えている。キリスト教文明地域の中のイスラム教徒、イスラム文明地域の中のキリスト教徒にとっては困難が深まっている。ユダヤ教徒や仏教徒やヒンドゥー教徒やシーク教徒も宗教の相違故に深刻化する紛争に関わる例が増えている。先住民の宗教文化や日本の神道が、外来宗教に対して厳しい批判の声を上げ攻撃的な姿勢を見せることもある。

現代の世界では、国家や民族の間の紛争や対立とともに、いやそれ以上に、文明や宗教の間の紛争や対立が人類の脅威となっているかのようだ。だが、このような理解は正しいのだろうか。ほんとうに文明や宗教の対立が現代世界の主要な脅威なのだろうか。一方、このような困難な事態に対して、紛争や対立を乗り越えて、和解に至ろうとする努力もさまざまに試みられてきた。文明間の対話とよばれるものも、そのような試みの新しいものの一つである。イランのハタミ大統領が提唱し、国連でも取り組みが行われてきた文明間の対話にはどのような可能性があるだろうか。また、どのような限界があるだろうか。
このシンポジウムは、文明間の対話について論じるとともに、とくにそれと宗教との関わりについて考察することを目指すものである。そもそも宗教と文明の関係はどのようなものか。文明と宗教はそれぞれ戦争と平和に、また暴力と和解にどのように関わり合ってきたのだろうか。文明を超えるグローバルな文化が育ちつつあるのだろうか。あるいはそれは植民地主義の新たな形態にすぎないのだろうか。現在求められている文明間の対話において、宗教はどのような役割を占めるのだろうか。文明間の対話とこれまで試みられてきた宗教間の対話はどのような関係にあるのだろうか。また、グローバルな現代社会の中で、文明や宗教の対話が重要な働きを果たす空間を構築することができるだろうか。

このシンポジウムは以上のような諸問題につき、宗教研究者だけでなく、人文社会系のさまざまな学問を背景としながら、文明間の対話やグローバルな諸文化間の相互理解に積極的に関わってきた方々に論じ合っていただく。パネリストは自らが属する文明的宗教文化的背景だけでなく、研究方法、また研究対象においても多様である。「文明間の対話と宗教」という主題について、考える視角も大いに異なっている。このシンポジウムでは、そのような多様性の中から、豊かで奥深い論点と洞察が産み出されてくることが期待される。

パネリスト(アルファベット順):
杜 維明(ハーヴァード大学イェンチン研究所長、米国)
マリア=クララ・ルシェッティ=ビンジェメール(リオ・デ・ジャネイロ・カトリック大学教授、ブラジル)
ハンス・ファン・ヒンケル(国連大学東京校学長、日本)
小田 淑子(関西大学教授)

司会:
島薗 進(東京大学教授)


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※本シンポジウムは終了いたしました。多くの方の御来聴、ありがとうございました。