現代日本の宗教界からみた憲法改訂の意義
ヘレン・ハーデカー(ハーヴァード大学、米国)

日時:
3月27日(日)9:00〜12:00

主旨:
自民党は大幅な憲法改訂へと向けた計画を数年前から展開してきた。2004年10月、同党憲法調査会は「論点整理」という文書を発表、改訂項目を明らかにした。これを受け、自民党は2005年11月までに憲法改訂案をまとめ、国会に提出する予定とした。この法案が衆参両院において三部の二の賛成を得て可決し、国民投票で過半数の賛成があった場合、同案が新しい日本国憲法として成立することになる。上記「論点整理」中の三項目(平和主義、政教分離、天皇の位置)に対し、日本の宗教界はすでに関心を示しており、これから意見をまとめていくことになる。本発表は、憲法改訂案が日本の宗教界にとって有する意味を明らかにしようとするものである。

日本の宗教界は当然一枚岩なわけではない。改憲についても団体・組織ごとにそれぞれの見方、考え方がある。しかも各団体・組織の市民社会参加、ないしは市民社会における議論の経験と経歴などによって、それぞれの進路もさまざまである。現憲法の公布当初から改憲を主張してきた神道の場合、今回も改憲論をさらに展開し、自民党案を強化しようとしている。特に、靖国神社を国家戦没者の礼賛施設とする案を神社本庁が歓迎するのは間違いない。一方、戦後を通して平和主義と政教分離を支持してきたキリスト教の諸教団、および新宗連加盟の諸新宗教団体は、ひきつづき護憲のスタンスをとるであろう。しかし、新宗連の加盟団体のなかには、平和主義を引きつづき強調しながらも、天皇を「元首」にする改憲案を歓迎するものもありうる。また、ニューエイジ系の団体や社会から途絶しがちなその他の新宗教団体の場合、その性質上、改憲問題についての市民社会の論議に積極的に参加するのは難しい。しかしその一方、彼らは、これほど重大な問題に沈黙しつづけるというわけにもいかない。もし単なる沈黙しかないとなれば、信者・信奉者たちから大きな不信を買いかねないからだ。さらに、仏教界の動向も重要である。彼らが自民党改憲案についてどのような意見をもつのか、まだ明らかではない。今後、仏教諸宗派が統一見解を発表するとは考えにくいが、最終的には、さまざまな宗報や新聞に何らかの姿勢を示さざるをえないことになろう。日本の仏教者らはNGO活動等を通じて実に積極的に市民社会へと参与している。いくつかの宗派の僧侶や信徒が一緒になって運動し、キリスト者とも協力して、アメリカのアフガン戦争、イラク戦争開始以来、反戦運動に携わるようにもなっている。こうして仏教界の護憲派には、宗派間、僧侶・一般信徒間のギャップを超え、大きな協力体制をしく動きが生じるかもしれない。いずれにせよ、各宗教団体の自民党改憲案に対する意見、態度、動き等が、当分の間、日本社会における宗教の位置を定めるポイントになるであろう。



ヘレン・ハーデカー(Helen HARDACRE)

ハーバード大学教授。ライシャワー日本研究所にて日本宗教・社会を担当。著作にLay Buddhism in Contemporary Japan (1984)、Kurozumikyo and the New Religions of Japan (1986)、Shinto and the State 1868-1988 (1989)、Marketing the Menacing Fetus in Japan (1997)、Religion and Society in Nineteenth-century Japan (2003) などがある。近年の研究関心は、「市民社会」の視点からの日本宗教・社会の分析、憲法改正案が与える日本宗教への影響などに向けられている。