文章表現Ⅱクラス  自由テーマの小論文

韓国の結婚における礼緞問題についての一考察

社会学  張 惠媛(韓国)

 

はじめに

礼緞(イェダン)とは韓国で結婚の際に、新婦が新郎側の両親や親族に届ける贈り物のことである。近年、昔から続いてきたこの伝統的な風習が問題になっている。礼緞は本来、高級絹織物である「緋緞(ビダン)」であったが、現在は緋緞以上に高価な物を期待するようになり、新婦側の経済的な負担が増えている[1]。本研究の目的は贅沢な礼緞を贈る慣例が社会全般に拡大しつつある原因を探ることにある。本研究では、韓国の大手メディアである朝鮮日報が女性家族部や結婚情報会社ソンウなどと共同調査した結果を載せた記事をもとに礼緞問題の原因について考察する。

 

本論

まず、現在の韓国の結婚事情と礼緞問題の実態を説明しておきたい。2010年の韓国の女性家族部の調査によると、結婚の際に男性は平均8078万ウォン、女性は2936万ウォンを使うという[2]。男性のほうが女性よりはるかに高い金額である理由は、女性側が礼緞を贈り、家具・家電などを購入するかわりに、男性側はチョンセ制度[3]を利用して住宅を用意するという慣例があるからである。実際、2000世帯の調査結果では、住宅費を分担していない女性が75%にも及んでいるという。これにより、女性が使う金額の多くは礼緞に割り当てられることが確認できる。また、朝鮮日報と結婚情報会社ソンウが新婚夫婦310組を対象に行った共同調査によると、新郎側に贈る礼緞は1249万ウォンに達している。さらに、朝鮮日報が新婚夫婦114組に4年間追跡インタビューをした結果、韓国社会の独特かつ奇怪な「礼緞の公式」が明らかとなった。礼緞として好まれる典型例は、新郎側が払う住宅費の10%に当たる現金、新郎の母のためのシャネルやルイ・ヴィトンなどのブランド・バッグ、新郎や新郎の父のためのハンドメイド・スーツや腕時計だという[4]

こうした風潮は90年代までは一部の高所得層に限られていたが、現在は中流層や庶民の間にも普及し、礼緞文化の反省的な見直しが促されている。

このような、非常に金のかかる礼緞を贈る慣例が社会全般に拡大しつつあるのはなぜなのか。朝鮮日報と女性家族部が全国の新婚夫婦300人を対象に調査したところ、結婚費用の中で礼物(イェムル)[5]・礼緞にかけるお金が一番もったいないと答えた回答者は35.3%、およそ3人に1人であった。それにもかかわらず、回答者の大多数が本来の予算以上に礼緞、礼物に費用をかけてしまったと答えている。このような現象を招く原因は4つに整理できよう。

第一に、新郎側が住宅を用意する以上、新婦側も同程度保障しなければならないという保障心理が作用している。伝統的に男性が住宅を提供するのが常識だが、昔と比べて急騰した住宅を提供しなければならない新郎の親は礼物や礼緞の形をとって新婦側にも負担を要求しているのである[6]。国民銀行不動産サービス事業団は、2011年の住宅費を100ウォンだと想定すると、2001年の住宅費は58.4ウォン、2012年は103.1ウォンであると述べている[7]。このような急激な住宅費の高騰にも関わらず、男性が家を負担するという認識はいまだに変わっておらず、新郎の親は退職後の対策もたてずに借金をしても息子の家を購入するのである。そこまで無理をするのはなぜだろうか。住宅を用意しないと、結婚後息子は夫としての顔が立たないと心配する場合もあれば、息子たちは親の世代とは違い、現在の住宅市場のままでは、一生働いても貯蓄で住宅を購入することはできず、親の助けが不可欠であるとする場合もある。特に後者の考えは一般化しつつある。ここまで息子夫婦のために犠牲を払った新郎の親は住宅費には及ばなくとも新婦側に高価な礼緞を要求するのである。

第二に、新婦側が豪華な礼緞を贈るのは結婚後礼緞を巡るトラブルを避けるためである。仮に安価な礼緞を贈れば、結婚後、夫の母がそのことを根に持ってトラブルが起こりかねない。実際に判事と離婚専門弁護士へのインタビューでは、結婚して5年以内に離婚する夫婦の半分以上は礼緞に原因があると述べている[8]。結婚準備の段階における礼緞が結婚後の大きなトラブルの原因なのである。結婚3年以内の新婚夫婦300組の調査結果では、「結婚を準備している間に礼緞が原因で深刻な瞬間に遭った」と答えたのは4組に1組もあり(23.9)、「礼緞葛藤が原因で離婚・破婚・結婚延期など極端な選択を考慮に入れたことがある」と答えたのは10組に1組あった(9.9)[9]。このような礼緞問題を避けるために新婦は結婚前に予算を超えても礼緞を惜しまず贈る方が心強いと判断するのである。結婚情報会社ソンウによれば、礼緞、礼物、ハム[10]などの形式的プレゼントにかける費用は、この13年間で933万ウォン(1999)から2608万ウォン(2012)へと、およそ3倍にもなっている[11]

ところで、このように礼緞は新婦にとって大きな負担であるが、多くの新婦は礼緞を省略して住宅費を半分ずつ払うという選択肢があっても断る。まだ男性が住宅を提供するのは当たり前であると考えるダブルスタンダードが作用するためである。実際に結婚情報会社ソンウによると

2012年女性の平均結婚費用は5101万ウォン、男性の場合は15707万ウォンで、男性の方が3倍以上負担している[12]。このように男性が住宅を提供するという時代遅れの慣例と加熱した住宅市場の現状が絡んで、本来プレゼントであるはずの礼緞が大きな社会問題になったと思われる。

第三に、この問題の背景には新郎・新婦の母の友達がいる。当初、簡素な礼緞を提案した両家の母親も友達の話に気が変わってしまうのである。新郎の母の友達は新婦から何をもらったのかと競争心をそそのかし、新婦の母の友達は「経済的な負担が大きくても、人並みに贈らないと後で娘が苦労する」と言って不安感を与えるという[13]。世間で恥をかきたくないという気持ち、さらに見栄を張ろうとする気持ちが混じって全社会階層にわたって豪華な礼緞を贈る慣例が広まりつつあるのだと考えられる。

第四に、これほど問題が大きくなった要因として、親の過度な介入と介入を当たり前に受け取る子供たちの態度が挙げられる。態度とはいえ、これは個人的な傾向というより、歴史的に育まれてきた特性であろう。現在、子供を結婚させる親は1950年以降に生まれたベービブーマー世代がほとんどであるが、彼らは韓国が7080年の高度成長期に社会人となり、節約と貯蓄によって家を構え、中流層に入った。しかし、IMF経済危機のリストラや終身雇用の崩壊を経験して、実力や英語力の重要性を体感し、子供を塾に行かせたり、家庭教師を雇ったり、子供を母親同伴で留学させたりした。学校の成績、大学のレベル、職場のレベルなどと年収の因果関係を誰よりも確信し、子供を献身的にサポートしてきた親たち、そしてこのようなサポートのなかで育てられ、大人になっても当たり前のように親の干渉を受け入れる80年代生まれの子供の存在によって礼緞問題が深刻になったとも言えるだろう[14]。そもそも、親に頼って結婚することを期待し、さらに当たり前のように思う国は世界的にも珍しいであろう。他国の場合を見ると、日本では家賃の月払いや結婚費用の分担が一般化しており、イギリスでも両家の間に現金が交わされることは縁起が悪いとされているという[15]。このような他国の事情に対して、韓国では新郎・新婦が親の助けと介入を通じて結婚することが一般的であることが礼緞問題の根本的な原因であると思われる。

 

おわりに

以上、朝鮮日報が発表した数値を用いて、高価な礼緞を贈る慣例が拡大しつつある原因を分析した。その結果、四つの注目すべき原因を見いだすことができた。それは、新郎側が払った住宅費への保障心理、新婦側の結婚後礼緞関連トラブルの予防、親の競争心や不安感をあおる親の友達、そして親の干渉とサポートを求める子供の態度である。

もちろん、結婚というのは個人が自由に行うもので、個々人がどのような形で結婚をするかは価値判断が難しい点がある。裕福な親が自分で稼いだ資産で、息子夫婦のために住宅を購入してやることを非難するつもりはなく、それは個人の自由だと考える。本研究で問題視するのは、親は経済的に余裕がないにも関わらず、無理をして子供の結婚をサポートするという傾向の拡大であることをあらためて断っておきたい。今後の課題は、結婚式が両家に経済的な負担を負わせる場ではなく喜びと祝福の場になるように解決策を探ることである。 

 

参考文献

女性家族部(2010)、「第2次家族実態調査」

 

朝鮮日報

http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/03/21/2012032100126.html

http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/02/2012070200201.html

http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/02/2012070200185.html

http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/03/2012070300216.html

http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/03/2012070300138.html

http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/03/2012070300182.html

http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/04/2012070400273.html

http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/05/2012070500206.html

http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/05/2012070500210.html

 

韓国旅行「コネスト」

http://www.konest.com/contents/korean_life_detail.html?id=2800

http://www.konest.com/contents/korean_life_detail.html?id=453



[1] <http://www.konest.com/contents/korean_life_detail.html?id=2800>.

[2] 女性家族部(2010)、「第2次家族実態調査」、p.599.

[3] 月々の家賃のかわりに、契約時にまとまった保証金(チョンセ)を払う制度。家主と契約期間を定め、最初に払ったチョンセは、契約が切れる時に全額返金される  <http://www.konest.com/contents/korean_life_detail.html?id=453>.

[4] <http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/03/2012070300138.html>.

[5] 新郎・新婦が交換し合う結婚記念品。宝石やアクセサリーのほか、ペアの時計や指輪を贈り合うことが多い。<http://www.konest.com/contents/korean_life_detail.html?id=2800>.

[6] <http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/03/21/2012032100126.html>.

[7] <http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/05/2012070500210.html>.

[8] <http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/02/2012070200201.html>.

[9] <http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/02/2012070200185.html>.

[10] 新郎側が結婚に対する感謝を込めて新婦の家に届ける贈り物を入れる箱のこと 

<http://www.konest.com/contents/korean_life_detail.html?id=2800>.

[11] <http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/03/2012070300182.html>.

[12] <http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/03/2012070300182.html>.

[13] <http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/03/2012070300216.html>.

[14] <http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/05/2012070500206.html>.

[15] <http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2012/07/04/2012070400273.html>.