文章表現Ⅱクラス  自由テーマの小論文

カザフスタンにおけるバイリンガリズムの現状と課題

 

現代文芸論  ウッセン ボタゴズ(カザフスタン)

 

 カザフスタンでは二か国語併用が実践され、国語のカザフ語と共通語のロシア語が共存している。ソ連邦時代においては生産主義のイデオロギーが根強く普及したが、それは民族アイデンティティや母語をソビエト化、すなわちロシア化することを目指した。現在カザフスタンがロシア語と切り離せない関係にあるのはこのような政策の影響ではないだろうか。

 本稿で注目したいのはカザフスタンにおけるバイリンガリズムである。現在もカザフスタンの様々な社会環境でロシア語のほうがよく利用され、カザフ語はカザフ人だけの言語とみなされているのが現状である。その結果、カザフ語は厳しい状況下にあり、近いうちに消えていく恐れがあると言っても過言ではない。

 そこで以下では、近年カザフ語を中心に行われた世論調査や総計データを素材とし、バイリンガリズムの現状と課題について論じることにする。また、カザフ語不評現象の起源について指摘し、これを排除するためどのような対策が必要なのかを考察することにする。

第一章:カザフスタンにおける二か国語併用の歴史的背景

 ロシア語の普及は19世紀前半、つまりカザフスタンがロシア帝国の管理下に置かれたところから始まった。19世紀半ばからカザフスタンの政治体制や各地方の行政管理局などが根本的に変換され、事務処理関連の書類はロシア語で書かれるようになった。カザフ語は国語というよりも、個人用及び家族用のことばとして存在することになった。

 カザフスタンはまずロシア帝国、その後ソビエト連邦の下に置かれ、言うまでもなくロシア語が国語に制定された。また、1940年にカザフ語の文字体系がアラブ文字からキリル文字に変換され、これもロシア語の著しい強化を促進したのである。

こうして、1980年までに各都市は100%ロシア化された。一方、農村においては事務処理関連書類の一部はまだカザフ語で書かれていた。しかし、ソ連の言語に関する厳しい政策のため、1939195719691983年にソビエト化というスローガンで全国のカザフ語学校の大半が閉校され、農村におけるロシア化も強化されたのである。

 他の旧ソ連管理下の都市の変遷を見ていくと、1980年代末まではソビエト圏内においてロシア語が国語でない国は3つしか存在しなかった。それは、外カフカスのアゼルバイジャン、アルメニヤおよびグルジアである。1989年にソビエト界で初めてモルダビアがモルダブ語(ルーマニア語)を国語、ロシア語を民族間のコミュニケーション語に制定した。カザフスタンもやがて同じ政策をとり、カザフ語に優先的な権利を与えた。

 しかし、カザフスタンは100年以上もロシア語の下で存在してきた。ソビエト連邦が崩壊し、カザフスタンが独立共和国になった後もロシア語の影響は根強く、1991年の調査では、ロシア語を母語とする人が国民の65%を占めていた。つまり、現代のカザフスタンにおける大課題のひとつは国語カザフ語の復興だと言えるだろう。

第二章:バイリンガリズムと現代社会

以上、ごく簡単であるがカザフスタンにおけるバイリンガリズムの歴史的背景について説明した。では、二ヵ国語併用は現代社会にどのような影響を与えているのだろうか。

独立直後カザフスタン政府は国語強化に向けて様々な対策を立て始めた。その例として、1997711日に「カザフスタンにおける言語について」という法律ができたが、これには次のことが明文化されている:「国語[1]はカザフスタン国民一致の要素であるため、カザフスタン共和国の各住民に国語の学習を義務づける」。つまり、国家機関、教育、ビジネス、マスメディアといった様々な社会環境ではカザフ語で話す能力および書く能力が義務とされたのだ。  

ところでカザフスタンは多民族国家であり、各民族の母語、文化やアイデンティティはどれも等しく重要なものとみなされている。要するに、カザフスタンではロシア語であれ、他の言語であれ、特別視されていないということである。2007年の8月国民向けのスピーチでナザルバエフ大統領は「カザフ語はカザフスタン国民一致の象徴であるため、我々は今後もカザフ語の発展に全力をつくしていかなければなりません。それと同時にカザフスタンに住んでいるそれぞれの民族が自分の母語で話すだけでなく、母語で教育を受けるための、よりよい状況を作っていかなければなりません」と主張した。

さて、カザフスタンにおけるカザフ語とロシア語の現状はどうなっているのだろうか。2004年に行われた世論調査の結果を見てみると、「日常生活では何語で話しますか」という質問に対して、カザフ語52%、ロシア語38%、他の言語10%という答えであった。さらに、カザフ語と答えた人のうち、40%は話す・読む・書くことがすべてできるが、残りの12%は「話せるが、書けない」と言い足している。民族別に見ていくと、カザフ語を母語とするカザフ人は65%で、2000年より5ポイントも上がっている。ロシア人を含む他の民族の場合、ほぼ90%はカザフ語で話せないと答えたが、「身につけたい」との声も多く、積極的な傾向がみられた。

企業における二か国語併用については、「あなたが働いている企業は何語で管理されていますか」という質問に対して、ロシア語40%、ロシア語およびカザフ語の併用25%、カザフ語20%と答えている。おそらく、現在もまだビジネスや行政上の言語はロシア語であり、カザフ語は日常生活の範囲を超えていないことが予想される。

この他、「カザフ語の強化が必要だと思いますか」という質問に対しては、「必要」と答えたカザフ人が多く、約65%に達した。これについては他の民族の場合は、「必要ではない」、あるいは「今のままで結構」という回答が40%近くある。つまり、カザフ語の強化についてカザフ人は積極的であるが、他の民族にとってはやはりロシア語のほうが必要だと思われる。

このように、現在カザフスタンにはカザフ語不評現象が存在している。身につけたいとの声もあるが、結局日常会話のレベルを超えていない。これらの点から、カザフ語の普及、あるいはカザフ語を身につけようとしている人に対して現在の対策では不十分だと言ってよいだろう。

 第三章:カザフ語の現状と普及対策

 では、現在カザフ語の普及にはどのような対策が取られているのだろうか。近年カザフスタン政府によって国語普及及び強化のため様々なプロジェクトが実施されている。以下にこれを列挙してみる。

 1997年に言語の法律が施行されてから、カザフスタンの各州に国語普及センターが設立された。このセンターは公文書のカザフ語訳、カザフ語教育コース、市内のカザフ語で書かれている道路名称やビルボードの管理といった様々な任務を果たしている。また、これと同時にマスメディアにおいて放送時間の50%がカザフ語で流れるよう義務化された。

 教育においても大変革が実施され、学校や大学[2]では国語としてのカザフ語やカザフスタン史が義務科目と制定され、受験にも付加された。つまり、今後カザフスタンの在住者は教育を受けるため、また就職して出世するためにはカザフ語を勉強しなければならないということだろう。このような対策に関してカザフ人や他の民族はどう思っているのだろうか。

 2002年にマスメディアについて行われた世論調査の結果、カザフスタン人はカザフ語での放送に対して大きな不満を感じていることが明らかになった。「カザフ語で放送されているニュースや番組を見ていますか」という質問に対して、カザフ人の60%は「見ている」と回答したが、「面白いと思いますか」に対しては「面白くない」との回答が大半を占めた。ロシア人を含む他の民族に同じ質問をすると、ほぼ90%は「見ていない」と回答し、また放送時間の50%がカザフ語になったことに対して否定的な意見が多かった。

 このように、現在カザフ語で話せない人に対してカザフ語は憧れではなく、義務のようなイメージを与えていると言えるだろう。カザフ語に興味を向けさせるには、まず教育コースや教科書は内容を軽くしたほうがよい。また、公共の場所や観光名所においてカザフ語の簡単な会話書を無料で配布すれば、学習希望者や一般人が少しずつ目を向けるようになるだろう。

 それのみならず、マスメディアでもカザフ語を教える番組が放送されれば、勉強も楽しくなるし、カザフ語時間の視聴率も上がるだろう。例えば、このような番組をカザフ人とともにカザフ語のうまい外国人が指導すると、さらにカザフ語の学習に刺激を与えるのではないだろうか。何と言っても、人間は義務とされたものより、刺激を与えてくれるものに憧れるだろう。

 このように、カザフ語センターが法律でコントロールするだけでなく、文化的な交流、カザフ語学習の様々な誘い方を工夫し、キャンペーンを行うなどすれば、国語としてのカザフ語は一歩早く再生するのではないだろうか。

 結 論

 本稿では、これまでのカザフスタンにおけるバイリンガリズムを取り上げて議論をしてきた。ロシア語は19世紀半ばからカザフスタンに普及しはじめ、言うまでもなく国の社会生活やカザフ語自体に大きな影響をもたらした。そこから百年にわたってカザフ人はバイリンガルであり続けたが、カザフスタンは多民族国家に革新された。

 しかしながら、独立後バイリンガリズムがもたらした様々な問題が発生するようになった。現在、国語はカザフ語であり、優先されているが、結局、日常生活の範囲を超えていない。また、国語カザフ語に対する国民の関心が薄く、勉強してはいても、本当に身につけた者はまだ少数にすぎない。つまり、カザフ語は義務とされたが、身につけるためのよい環境が作られていないのが現状である。本論で述べたような普及対策の一日も早い実施が望まれる。

 以上、大きな問題であるため、膨大な研究史的背景を有する論点すべてに言及することはできなかったが、カザフスタンにおけるバイリンガリズムの現状と課題の一端を考察した。

参考文献

1.  Бахытжамал Бектурганова Казахский язык и политика2/9290, ZonaKz

オンライン新聞、インターネット、http://www.zonakz.net/articles/11365 

2.  Шаукенова ЗаремаЯзыковая ситуация в Казахстане」「CESSIホームページ」

インターネット、http://www.cessi.ru/index.php?id=169 

3.  Ком-кон Евразия Нужно ли менять статус русского языка?ホームページ

インターネット、http://www.comcon-2.kz/publication/publ_000104.php



[1] ここではカザフ語

[2] ここではロシア語での学校や大学