読解Ⅲクラス  『博士の愛した数式』
 

『博士の愛した数式』を読んだ感想

 

社会心理学  李 美斯(中国)

 

作者は独特の手法で、いろいろな微妙な感情を表しました。80分で記憶の消えてし

まう博士にとって、玄関に現れるルートの母親は常に初対面の家政婦で、数
字の会話

が繰り返されました。他の家政婦はこんな博士とあまり話したくないか
もしれませんが、

ルートの母親は博士と過ごす時間をかなり楽しめたようです。
博士に対して、微妙な感

情を抱きました。最後まで、ルートの母親にとって博士
は特別な存在だと読者にはわか

っていても、どのような感情(たとえば、父親に
対する愛情あるいは恋人に対する愛情

など)を抱くのか、はっきり説明していな
いため、読者の想像に任せることができます。

「私がおります。義弟は、あなたを覚えることは一生できません。けれど私のことは、一

生忘れません」という博士の義姉である未亡人のセリフが、私の頭にす
ごく印象に残り

ました。これは未亡人の女性としての嫉妬を十分に感じさせまし
た。事故の前、博士は

「永遠に未亡人を愛する」ということを未亡人と約束した
のに、事故の後、未亡人がよく

知っている博士は死んだも同然で、未亡人があま
り知らない博士が誕生して、顔と体

は本来の博士のものですが、未亡人はこの新
誕生の博士とどのように、付き合うべき

なのか、どうしようもなく、もう分から
なくなったようです。未亡人の悲しさと切なさを私

は感じます。

一方、ルートの母親には博士と恋人同士になるのを望んでいる様子が見られま

ん。ただ、博士は自分にとってもルートにとっても特別な存在で、博士と過ご
す時間は

幸せだと感じているため、もっと博士と親しくなりたいと彼女は思った
のだと私は思い

ます。だから、動機はかなり単純だと思います。人間は「快楽を
追求する」生き物だか

らです。

未亡人は「過去を生きている」、ルートの母親は「今を生きている」ように見えます。

確かに、ルートの母親は昔の博士を知らないため、博士と新しい関係を
くことができ

るけれど、未亡人は自分を愛していた博士と自分のことを忘れて
いる博士を対照し

ているために、精神的葛藤が起こったのかもしれません。だか
ら、未亡人より、ルート

の母親は博士に対してより楽観的な態度を取ることがで
き、「今」を生きようとすること

ができるのではないかと私は思います。

実際、未亡人は優しい人だと思います。ルートの母親と博士を別れさせるためにで

はなく、自分が年を段々取ったし、もし自分が博士より先にこの世を去った
ら、障害を

持った年寄りの博士の面倒を見る者がだれもいなくなると思い、前々
から、専門の医

療施設へ申請書を提出していました。博士が専門の医療施設へ入
るのは、実は、未

亡人にとっても、ルートの母親にとっても、物理的な「負担」
も、精神的な「負担」も軽減

できるのではないかと思います。最初、未亡人はル
ートの母親に嫉妬していたけれ

ど、博士が医療施設へ入ってから、未亡人はルー
トの母親と「友達」になったようで

す。これは、二人とも、こんな博士は愛すべ
き人を選ぶことはできないから、争いあう

より、博士に対して、共感できる友達
になったほうがよいと思ったのかもしれません。

次に、すべての主人公は「求め合う」関係にあるのかもしれません。たとえば、博士

から、ルートとルートの母親は「父親」「父親・夫」みたいな存在を求めてい
ます。ルート

から、博士と未亡人は「自分の子ども」みたいな存在を求めていま
す。ルートの母親か

ら、未亡人は共感できる友達を求めています。実は、未亡人
も前の夫がなくなって、

事故のせいで、昔のままの博士も失ってしまい、一人ぼ
っちになったようです。胸がと

ても苦しいのではないかと思います。ルートもル
ートの母親も親戚とか友達とかあまり

いないようです。最初、すべての主人公は
寂しくなりがちで、可哀そうに見えるけれど、

主人公はお互いに影響しあいなが
ら、不思議な作用があり、結末では、みんな幸せそ

うに見えます。私にとって、
本当にすばらしい結末だと思います。面白い手法はもちろ

んのことですが、みん
ながこんなに幸せになれたので、こちらも感動しました。博士が

ルートの母親と
恋人になって、二人は未亡人に祝福されて、みんなも幸せに過ごした

みたいな結
末より、作者が選んだ結末のほうがずっとよいと思います。一味違った斬

新なハ
ッピーエンディングがすごいと思います。

最後の部分に書いてあった「博士の幸福は計算の難しさには比例しない。どんなに

単純な計算であっても、その正しさを分かち合えることが、私たちの喜びと
なる」をみる

と、これは、小さな幸せでも、本当のことを分かち合えることによ
って、より大きな幸せ

に至るのは可能だということだと私は解釈してみました。

たとえば、未亡人は「昔、自分を愛してくれた博士はもういないけれど、自分が愛して

いた博士はまだ生きていることをありがたいと思い、ルートの母親に嫉妬
するより、彼

女と一緒に、博士と楽しく時間を過ごせ、みんなも幸せになれば、
それが一番いい」と

思えば、自分も少しは苦痛から解脱できるのではないかと思
います。そして、ルートの

母親は「博士は自分を愛してくれなくても、博士と一
緒に過ごす時間が楽しければ、そ

れがなによりも大切だ」と思えば、満足しやす
くなるのではないかと思います。しかし、

この部分についての感想はあくまで、
根拠のあまりない個人的な感想です。

博士は時間が止まった世界に生きています。自分も周りの人々も老けていくことは

ないです。このことが「妙」だと思います。事故の後、博士は数学のことは
すべて覚え

ていますけれど、未亡人のことさえも忘れてしまったのが不思議だと
思います。

この小説では、いろいろなことを直接説明するより、読者に考えさせたり、読者の想

像に任せたりする空間が広いと思います。終わり方も面白いです。この小
説は面白

く、深みのある小説だと思います。記憶の障害を持ったこの博士は、周
りの人々との

やり取りをめぐって、この世に「ありえない」現実と「ありうる」
想像との境界線にあると

いう展開が、非常に微妙だと思います。