文章表現Ⅲクラス  日本人と歌
 

国民唱歌によって作られた近代国家と国民

 

スラヴ語スラヴ文学  張  忱(中国)

 

『国民唱歌集』に出ている音楽がまともな「芸術」と言えるかについて、一見、純粋な

「芸術」とは違った目的に使われたと理解している人が多いが、はたしてそうだろうか。

その時代にはその時代なりに、音楽文化に対する考え方も現代とは違うと考えれば、

近代国家が成り立っていく過程にこそ生まれた独特な芸術として受け取られるべきな

のではないか。

すべての先入観と現代人の芸術に与えた固定観念から抜け出し、国民唱歌の文化

的、歴史的意義を客観的に評価する必要がある。それによって、未熟で幼稚だったと

考えられているその時代の音楽には、意外に多様で、豊かな広がりが発見できる。

まず、「国民」意識の確立に大変役立った唱歌は、明治維新ではじまった近代国家

の新生に影響を与えた。日本という新たな欧米列強に匹敵できる国民国家の精神教

育を、歌によって完成させることにはちゃんとした理由がある。要するに、「健康」に良

い活動として、唱歌は国民の健康と健全な道徳の両方の形成に不可欠であると提唱

され、それによって国民を整然とした秩序正しい社会づくりに導くと説かれた。日本とい

う国では万世一系の天皇を中心とした国体という概念が根本とされ、国民の健康と道

徳を育てる唱歌が必要とされ、堂々と生み出されたという。

また、日本国民の特性からみると、コミュニティへの帰属意識や連帯意識が重視さ

れ、合唱運動をさらに発展させたという。しかも、もともと自国の文化にコンプレックスを

持っており、自分の文化的伝統を簡単に捨ててしまった変な民族である日本人にとっ

て、このようなコミュニティへの帰属意識は不可欠だと言っても過言ではない。

さらに、西欧芸術の摂取に関して、国民唱歌はどのような影響をもたらしたのだろう

か。最初の唱歌は、意外にも日本人の作曲したものを中心とせず、ウェルナーの曲

や、モーツァルトのメロディーなどを丸々借りて、まさかと思われるような歌詞をつけた

ことはおかしいが、興味深い。クラシックの最高傑作の旋律に、生活道徳や天皇制イ

デオロギーなどにかかわる歌詞を嵌めこみ、露骨に国家のプロパガンダの手段に

変えられた西欧音楽は、この極端な方法で摂取された。何百年前にとっくに死んだ作

曲家がもし生きていたら、必ず止めさせたであろうようなこの西欧文化に対する受容

の仕方は、日本近代国家の成立する過程の特徴をも、日本人国民の性格をも丸出し

にしているのではないだろうか。

しかし、客観的に、冷静に分析すると、国民唱歌によって近代国家の団結を作り出

した方法は、それほど強引ではなく、比較的自然に万民を集団にすることを達成した

と言えるだろう。皇国史観に直接関わるものばかりではなく、国民の伝統、文化と生

活の知恵を讃頌することによって、結果的に「国民」が形をなしてきて、天皇イデオロ

ギーも定着するようになった。

天皇イデオロギーの刷り込みも、日本国民性の生活伝統も歌った国民唱歌運動

は、当時の歴史の流れに独特な風景を成り立たせ、唯一の繰り返すことのない現象

として、日本の文化と歴史を研究する際、貴重な史料として輝き続けるだろう。