読解Vクラス  ガイド
 

小川洋子「ガイド」を読んで

 

日本語日本文学  金 宙賢(韓国)

 

小川洋子さんの「ガイド」を読んだ。小川さんの小説は『博士が愛した数式』を読んだ

事があるが、それは韓国語の翻訳版であったので、日本語で読んだのは「ガイド」が初

めてである。今の時期にふさわしい、さわやかな気分になれる小説だったと思う。

旅行とは、日常から離れて知らないところに行き、新しい経験を楽しむ事であると思

うが、結局それは新しい思い出を作ることであると思う。人生を豊かにするのは他なら

ない「記憶」であるからだ。最初は、人々の新しい思い出作りを手伝うことを仕事とする

ガイドの母と、そうして得られた思い出―記憶―が忘れられないようにタイトルを付ける

事を仕事とする題名屋さんの小父さんという設定が、なんて相性のいいペアなんだと思

い、とても面白いと思った。が、もう少し考えてみて、結局この二人の仕事は同じではな

いかと思うようになった。

 新しいい場所へ旅行客を案内するガイドという仕事は、題名を付ける事によって自分

の過去、記憶、思い出へと導いてくれる題名屋の仕事と似ている。二人とも‘ガイド’す

るのだ。一人は未知のところへ、もう一人は既知の、しかし忘れていたところへ。ベクト

ルは逆であっても、人間は生きていく中で、いつもこの両方向運動をやり続ける。

もう一つ気になったのは、シャツ屋のおばさんである。記憶というものは、同じ出来

事に対してもそれを経験する人によって異なってくるし、ある人の大切な記憶は他の人

にとってはどうでもいい事であることもしばしばある。しかも、その記憶は、時間が経つ

につれて歪曲されたり、忘れた部分には穴ができたり、また辛かった事がいい記憶と

化すこともある。まさにシャツ屋さんの作るシャツのように。それゆえ、ボタンが足りな

かったり、いらないポケットがあったりして同じものは一つもないシャツ屋さんのシャツ

は、そのまま記憶の形状をなぞったものであると言える。

きれいに組み立てられた物語の設定、そしてその真ん中で上手く物語を引っ張って

いく大人っぽい少年は、無国籍的な空間である舞台や、登場人物の珍しい仕事、非現

実的な出来事に、確かなリアリティーを持たせる役割を果たしていると言えるだろう。