「言葉と音のパフォーマンス」レポート

2010年11月26日(月)午後6時〜午後8時20分
コミュニケーション・プラザ北館2階音楽実習室(駒場)
朗読:多和田葉子、ピアノ:高瀬アキ
主催:東京大学大学院 総合文化研究科 表象文化論研究室
東京大学文学部 現代文芸論研究室
協力:SETENV


 多和田葉子さんと高瀬アキさんによる「言葉と音のパフォーマンス」を聞いた。スタンウェイの安置された駒場の小さなホールは、席を埋める聴衆の熱気に支配されていた。詩人とピアニストが登場して、ピアノのそばにすっくと立った詩人が、力強い歯切れのよい声で朗々と言葉を語り始めたとき、ぼくの胸は高鳴った。それからあとは、魅入られたように言葉と音のパフォーマンスを見守っていた。
 詩の言葉は意味による連想に加えて、音の響きそのもののつながりから変化し、展開していく。言葉の連なりはそれ自体で音楽のように拍動している。ピアノはピアノで、言葉に寄り添うようにしながら、時にはあえてずらすことも厭わず、同等の立場から自己主張していく。それでも、互いへの反応を通じて二人のリズムと呼吸が確実に熱を増していくのが感じられる。声と音は、互いに歩み寄るようなやさしい関係で結ばれているのではない。そこには、不協和さえも含むような緊張がある。だが、二人の間には、それだけいっそう密で複雑な関係が結ばれているのかもしれない。演奏後のワークショップで、お二人は「無関係の関係性」という言葉をキーワードとして提起されていた。それは、お互いの呼吸に真剣に耳を澄ませているからこそ成立し得る関係なのだ。
 パフォーマンスの後のワークショップでは、多和田さんと高瀬さんの肩の力を抜いたトークが楽しかった。お二人の友情は、うらやましいくらいにすがすがしくてまぶしかった。多和田さんと高瀬さんは、ベルリンでのラジオの共演を機に知り合ったのだという。ベルリンは、さまざまな国から芸術家が集まる都市で、個々のパフォーマンスはもちろん、お二人のような分野を異にする芸術家の共演も盛んに行われているという。また、無名の若手に対する支援も厚く、ベルリンの人たちは彼らの演奏会に足を運んで、未来の芸術家を自ら見出すことを楽しみにしているのだという。お二人の友情からは、ベルリンのそうした文化的な息吹が感じられた。まだ見ぬ異国の都市への憧れを、二人の日本人がぼくの胸のなかにかき立ててくれたこと、ここには何か素晴らしいことがあるような気がする。

(高橋知之 現代文芸論)