現代文芸論研究室 夏合宿レポート2012

現代文芸論修士一年 西菜津子

毎年恒例となっている合宿も今回で六回目、幹事はその年のM1が行うのが通例である。昨年度の合宿から「おそらく来年は自分が幹事」と予想していたがやはりそうなった。会場は2010年度と同じ、静岡県伊東の宿となる。温泉と海があり、なおかつ学生のオールナイトコンパ(という宿側にとっては厄介であろう行事)が可能な宿はやはり少ない。計画段階では別の会場も念頭にあったが、やはりピーク時ということでかなり早い時点でそこは予約で満杯となってしまった。来年以降の幹事には早め早めの行動をおすすめしたい。参加者は現代文芸論の三名の教授陣はもちろん、院生や学生を合わせて総勢二十九名である。研究室外部からはスラヴ文学と英米文学からの参加者もおり、例年よりは少なめであるものの、賑やかな御一行様と相成った。

蒸し暑い午後二時から(先に温泉につかった方も何名かいる状態で)始まった勉強会、一日目の発表者は四名であった。研究室からプロジェクターを持参しての発表という初の試みがあったが、機械の不備で開始早々に発表者の順番を入れ替えることになった。そのような事情でトップバッターは修士の学生による「ペルーの学園もの小説と三人の作家」となり、学校を通じて社会を各々の方法で洞察した小説を比較した。学部生による「もうひとつのシュルレアリスム——ルヴェルディとゴル」は日本のシュルレアリスムはフランスのそれと本当に異なるのかという疑問に端を発して、従来あまり顧みられてこなかった文学者の持論を紹介した。『ハックルベリー・フィンの冒険勉強会は夏学期の間行われていた柴田先生の勉強会の特別編で、二十、二十一章の解説及び部分対訳を二人が発表した。スラヴ文学研究室の学部生による「亡命作家エゴン・ホストフスキーの作品と思想」は20世紀に活躍し、チェコスロヴァキアからアメリカに亡命したスパイ小説作家の一作品を様々な角度から論じた。最後は博士の学生による「最近の学会活動について」となり、これは海外で行われた二つの学会の参加報告であった。まずは毎年ハーバード大学が開催しているInstitute of World Literature、この研究室にも関係の深い世界文学論について第一線で活躍する講師陣が一か月講義を行う。今年はトルコで行われ、イスタンブールでの写真も紹介されてちょっとした観光案内を見ている気分になった。次にカリフォルニアで開かれたカルロス・フエンテス学会の報告があり、世界文学やゴシック文学など様々な切り口から作家を論じる。発表者はフエンテスの邦訳に関して報告したという。

元々時間の延長を想定して作ったタイムテーブルではあったが、一時間半あるはずの自由時間はゼロとなり、皆勉強会終了と同時に夕食会場慌ただしく向かった。浜辺町だけあって各テーブルには舟盛りが並び、普段は味わえない海の幸に舌鼓を打つ。食後の自由時間では温泉につかる者あり、近くのスーパーに買い出しに行く者あり、八時半には(今度は予定通り)恒例の飲み会が始まった。ギターを用いて柴田先生と野谷先生が熱唱する光景は合宿の風物詩だから楽しみにしていた人も多いだろう。また、冗談として持参した宴会グッズ(とある学生のために買ったがいつのまにか会場中を回っていた)や菓子(元ネタを知っている人が自分以外に二名しかおらずネタとして機能しなかった)が一応活用されている様子に胸をなで下ろす。やがて会場内には趣味を談じる者あれば、文学談義に花咲かせる者ありと宴会らしさが一段と増す。個人的に合宿三種の神器は「酒・ギター・花火」だと思っているが、今年も神器の力は健在だった。海辺での花火も楽しみ、午前三時ごろに宴会は無事終了。

翌朝の食卓に並べられた伊東名産の干物を堪能し、十時から二日目の勉強会が始まった。発表者は全員修士一年である。「今日の不条理演劇」は卒業論文の概要に加え、昨年の震災と日本におけるベケットの『ゴドーを待ちながら』の関係について紹介した。「文学における人形」は人形が登場する小説を通じて、男性/女性、見る主体/見られる客体の変遷を述べた。「黒沢清贖罪に関して」は同映画を『丹下左膳余話 百萬両の壺』の一場面と並べ、プールでの決闘場面などを論じた。さて、現代文芸論は「皆の専門がてんでバラバラ」という性質があり、合宿のような場ではいかにして聴衆をも巻き込めるような発表をするかというのが課題となっている。今年もまた発表テーマは多岐にわたったが、分かる人にだけ分かればよい、というような事態にはならずに済んだと思っている。ただ各発表が大幅に時間超過してしまい、参加者全員そろって合宿を終えられなかったのは反省点である。今後の課題の一つとして来年以降の参加者に引き継ぎたい。

色々とあったが、大きな事故もなく合宿を終了できた。お名前を挙げることはしないけれど、協力してくださった皆さまのおかげです。本当にありがとうございました。ドタバタしつつ、私も幹事として合宿を満喫できました。