講師プロフィール
ノラ・イクステナ(Nora Ikstena, 1969- )
リガ生まれの現代ラトビアを代表する小説家。1992年にラトビア大学文学部の学位取得後、コロンビア大学で英文学を学んだ。長篇小説は、『人生礼賛』(1998年)以来すでに20作以上を数える。その他著作は、ラトビア出身の文化人の評伝や、短編、エッセイ、シナリオなど多岐にわたる。作品の多くが、リトアニア語、エストニア語、ジョージア語、スウェーデン語、デンマーク語等に翻訳されている。
『ソビエト・ミルク』について
ラトビアは、2018年に建国100年を祝ったが、そのうちの半世紀はソ連の一部だった。本作は「私たち、ラトビア、20世紀」をテーマにラトビアの現代作家たちが取り組んだ小説シリーズの一作である。2015年の出版以来、本国で記録的なベストセラーとなり、およそ10か国語に翻訳され、国際的な評価を受けている。 原題のMātes piens『母乳』が示唆するように、物語はこの時代に生きねばならなかった母娘の関係を通じて、ほろ苦い歴史を想起させ、静かに熱い記憶を蘇らせる。同時に、ラトビアらしい森や暮らしの匂いも漂わせ、キリストや聖人を思わせる人物も登場する。そしてアメリカのカウンターカルチャー、ブレジネフの死、チェルノブイリ原発事故、ベルリンの壁崩壊といった、20世紀後半を大きく揺るがした出来事を肌身で感じとっていた人々の姿が描かれる。 Soviet Milkと題された英訳(2018年)は、「今となってはほとんど想像できないけれども、もしもヨーロッパがやっと勝ち得た諸国民の自由を守ることに失敗すれば、いとも簡単に再来しかねない時代を力強く再現する作品であり、それゆえに貴重で、さらに重要な小説になっている」(『ガーディアン』紙)と評され、ロンドン・ブックフェアで注目され、さらにEBRD(欧州復興開発銀行)文学賞(2019年)の最終ノミネート作品となった。
|