ヘンリク・シェンキェヴィチ Henryk Sienkiewicz (1846-1916)はポーランドを代表する小説家です。古代ローマを舞台に初期キリスト教徒の苦難を描いた長編『クオ・ヴァディス』(1896)が世界的に広く読まれて、著者は国際的な名声を高め、1905年にポーランド人として初めてノーベル文学賞を受賞しました。
しかしシェンキェヴィチがポーランドの国民作家として本領を発揮したのは、ポーランドを舞台とした歴史小説の分野であり、特に有名なのが17世紀ポーランドの戦乱の時代を描いた『火と剣によって』(1884)、『大洪水』(1886)、『パン・ヴォウォディヨフスキ』(1888)からなる三部作です。
これらの歴史小説は波瀾万丈の物語展開と豊かな歴史的細部に支えられた傑作で、何世代にもわたってポーランド国民に愛読されてきましたが、国外ではあまり知られることのないポーランドの史実に基づいているため、現在、世界であまり広く読まれていないのが残念です。その意味では、シェンキェヴィチの位置づけは、日本の国民的作家、司馬遼太郎に似ているとも言えるでしょう。
今年はポーランドが生んだこの国民的大作家シェンキェヴィチの生誕170周年、没後100周年にあたるため、この機会に、ポーランド広報文化センターと共催で、彼の生涯を改めて振り返り、その作品の魅力を見直すことを通じてポーランドの歴史と文化を知っていただくために、特別なイベントを催すことになりました。ポーランド広報文化センターは素敵なプレゼントを用意しています。ポーランドに関心をお持ちの皆様のご来場をお待ちしています。
(東京大学文学部 沼野充義)
**2015年12月18日、ポーランド共和国上院は、2016年をヘンリク・シェンキェヴィチ記念年とする決議を下しました。「シェンキェヴィチは、文学作品によって、評論文によって、社会活動によって民族意識を覚醒させ、ポーランド人であることの矜持、祖国愛、献身の力を教えた」と、上院の議員たちは訴えました。
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