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辰野隆先生 フランス文学には社会の中に人間を据えつけ、その行動を通して人間性を探求すると同時に社会と人間との関係を描いた作品が多い。フランス文学研究は必然的に人間と社会についての考察につながるのであって、本研究室(通称、仏文)の初代日本人教授辰野隆(右の肖像画)は達意の翻訳によってフランス文学の紹介に努めたほか、人間味あふれる洒脱な語り口の随筆と風刺のきいた社会批評によって多くの人々を啓発した。第二次大戦中、渡辺一夫はラブレー研究を手がかりに狂信的な時代を疑い続け、戦後、反人間的な精神のこわばりを批判するユマニスム(人文主義)の紹介によって思想界の一翼をになった。その薫陶を受けた大江健三郎は社会批判を作家活動の中核に据え、さらに尖鋭的な感覚に満ちた独自の小説世界を構築してノーベル文学賞を受賞した。卒業生には作家・ジャーナリズム活動に携わる者が多いが、フランス文学のこのような特徴を反映してか、社会や制度に対する批判的なスタンスを特徴とする人物が多い。

 この学風は現在においても継承され、本研究室ではなによりも自由と批判精神とを尊重している。すなわち授業は厳密なテクスト講読の形をとり、自己の解釈を常に辞書や参考文献と対照させて批判的に検討する読解態度を習得することを目的とする。また、個々の学生の自発性は常に尊重され、このような厳密なテクスト読解の方法に馴染んだ上で、それぞれ学生同士で切磋琢磨して考えを相互に検討しあいながらみずからの研究テーマを育て、立派な研究論文に仕上げている。言い換えれば、フランス語とフランス文学を学ぶ過程で、ルネサンス・ユマニスム、近代合理思想、啓蒙思想、フランス革命思想など、常に時代を切り開いてきたフランス文学の持つダイナミスムをみずから身につけるのである。

 現在、専任日本人教員は5名で、中世文学から20世紀文学までを専門的かつ幅広く学べるようにカヴァーしている。また、外国人教師・外国人非常勤講師によるフランス語の授業も多く、実践的なフランス語の運用能力が獲得できるようにも配慮されている。エコール・ノルマル・シューペリウール(高等師範学校)をはじめとする数校とは提携関係にあり、毎年大学院の学生から数名を留学生として送り出し、フランスでの博士論文提出者の数は多い。フランスの学界との交流は盛んで、年に10名内外の鋭意のフランス人研究者が研究室を訪れて講演会やセミナーが催されるほかに、提携先からのフランス人留学生はよく本研究室に馴染み、学部・大学院を問わず日本人学生と自主的に勉強会を持っている。



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