1997年度 学部演習「『詩』の意味、『文』の意味」(戸倉英美教授) 配付資料
注釈の読み方について
前川 晶
書籍、わけても古いそれには、文章の中途に、四分の一のスケールの文字が、二列にわたって、長短取り混ぜつつ挿入されていることが多い。昔の注釈は例外なくこのようにして本文に付せられている。長い注釈の場合、下まで目をやった後、次の行をすっ飛ばさないように気をつけよう。これをやると結構深刻である。
さて、注釈はだいたい次のパターンから構成される。
1, 字・語の注釈。ほぼ「A(者)、B也」として表記される。
2, 句全体に対する注釈。「言・・・」といった具合に、句の直接的な意味を説明するものが中心だが、それを敷衍して、直接には関係なく、論説を展開していくものもよくある。
3, 他人の意見の引用。「A曰(云 etc. )、・・・」で示される。これがけっこう問題。なぜか。後ろに引用者のコメントがついていることがよくあるため、どこで切ればいいのか、意味だけでは判然としないことがあるからである。このような場合、出来る限り原書を参照することをおすすめする。切るべき場所を明確にするだけで、全体の意味がすとんと腑に落ちることがある(だろうと思うんだけどな)。ただし、原書が事実上手に届かない場合(ex.京都にある、海外にある、時空の彼方にある etc.)はどうしようもない。明清以降の注釈者のものならまず問題はないが、宋はかなり危うい。残っていない場合のみならず、書籍自体は現存しても、現行のテキストにはない文句である可能性あり。補正・逸文があればそこも見ること。
4, テキストの校訂。たとえば字の異同について「A、―作B」「一本・・・」といった具合に表記される。
5, 音注。四声の別、反切法により発音表記が主である。ちなみにむろんこれらの概念のない、たとえば漢代の注釈には「七余反」などといった記述はありえない。なお宋代の叶韻説には注意。
このうちの、特に1や5は、本文の自然な切れ目を無視して、無理矢理挿入されることもある。また3に関わる問題は、テキストが評点本であればほぼ解決される。句読点が切ってあれば最上等、句点読点の別のない、今回のテキストでも十分上等である。しかし白文の注釈を読む羽目になったとき、我々はどうすればよいのか。
a,「也」を見たら切れ目と思え。まず大丈夫。
b,固有名詞を出来るだけ探して確定する。
c,一字単位で本文にあるのと同じ文字、あるいはそれまでの注釈にあったのと同じ
語句の反復がないかを確かめる。対句構造も見逃さないように。
d,わりと有名な書籍なら、古めの日本語の訳本をひっくり返す。注釈の書き下しを
載せていたりする。明治書院刊の訳本も頼りになる。ただし過信は禁物。
e,和刻本を探す。変な本のがあったりする。ただしd以上に過信は禁物。たまにこ
っちが書き直したくなるのもある。
f,放り出して逃げる。
g,S氏、K氏(注)に任せて逃げる。
HP委員会注
S氏、K氏 修士課程学生(1997年当時)
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