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概要

東京大学文学部

専修課程基礎文化考古学研究室皆さんは、考古学といえば、どのような学問だと考えるでしょうか。「大昔のことを研究する学問」、「発掘をする学問」といった答えが多いかもしれません。しかし、その答えは半分は当たっていますが、完全ではありません。これなら正解だと言えるのは、「考古学は、文字で記録されなかった歴史を「物」を通して明らかにする学問である」ということです。そして、その研究対象となる「物」を得るために行うのが発掘です。このため、考古学の研究は自ずと文字による記録が残る前か、あまり残らない時代が主となります。考古学が大昔のことを研究する学問だという印象は、そこから生まれるのでしょう。しかし実は、文字がある時代でも、使っていた物や庶民の生活のような文献記録に残らない部分は意外と多く、そのような部分について、考古学の研究は知られざる歴史を明らかにしています。このように、考古学は、人類が道具を使い始めてから現在にいたるまでの人類の歴史全体を、あらゆる手法を駆使しながら「物」を通して研究する学問なのです。考古学研究室は中国大陸を舞台とした戦前の東洋考古学から始まっています。文学部に考古学専攻が設置されたのは終戦直後の1946年で、学生が学び始めたのは翌年のことです。東洋考古学の伝統はその後も引き継がれ、歴代の教員や学生には東アジアを主とする外国の考古学を研究する者が多く、大陸との関係を考えながら北海道に関して行う研究が盛んであることも、その流れの中にあります。一方最近は、日本の旧石器、縄文、弥生時代などを研究する者が多く、自然科学的分析を積極的に取り入れた学際研究も活発です。戦前から収集されてきた日本と海外の考古資料を展示する考古列品室考古学研究室に入ると、学部時代には、まず基本的な分析方法と発掘の技術を学び、その後、実習に参加することになります。文学部には北海道北見市常呂町に実習施設があり、毎年そこで教員と学生が共同生活を送り、発掘調査を実施しています。こうして基本を身につけ、卒業論文執筆に取り組むことになります。卒論のテーマとしては、日本のほか、朝鮮半島や中国、シベリア、西アジアといった外国を研究する学生が比較的多いことが本研究室の特徴です。学部卒業後、大学院でさらに研究を深める場合も、最近は日本国内での調査研究のほか、海外調査や留学の機会も飛躍的に増加しており、以前と比べて恵まれた研究環境にあります。このように地域、時代ともに多様な研究テーマに挑んでいる考古学研究室の教員、先輩との切磋琢磨は、あなた自身の研究にとっても大きな刺激になるでしょう。基礎文化美術史学研究室研究室の名前は、「美術史」という「学」なのですが、これは「美術」と「史学」に分けることもできますね。つまり、ここは基本的には美術が好きだという人たちが集まって、好きなだけでなく研究もしてしまおうというところなのですけれど、方法としては歴史学の立場を取ろうというわけです。建築、絵画、版画、写真、彫刻、工芸品、さまざまなデザイン――あなたも見たら何か感想を持ちますよね。好きだとか嫌いだとか、ここがいいとかこうだったらもっとよかったとか。だいじなことです。研究の出発点にあるのは、何かのイメージに触れて心動かされた体験です。でも、次にするのは、自分がどういう感じを抱いたかを巧みに語ることではないのです。相手の立場に立ってものを考える、というのが歴史学ですから。自分の見たものがどんな形をしていて、どんな素材や技法で作られているのか、どこに特徴があるのかを細かく観察します。そして、いかなる力が働いてそういうイメージを形成したのか、調べられることは全部調べて、あらゆる可能性を検討します。また、そうやってできあがったものが社会にどう受け入れられたかとか、それに刺激されて、別のものが作られたといった現象にも注意を払います。歴史が美術を作り出すとともに、美術もまた歴史を作り出すのです。その両方の意味での〈イメージの歴史学〉を、ここでは探究しています。若い人は自分がいちばんだいじだから、相手の立場で考えるのはなかなかむつかしいかもしれませんね。若者は観念的でもありますから、具体的なことをだいじにする学問を敬遠する向きもあるかもしれません。2016年の見学旅行の折に兵庫県の大乗寺の襖絵を見る学生たち卒業生には美術館・博物館で学芸員として働く人も数多くいます。そのひとりが担当した展覧会「マネとモダン・パリ」(三菱一号館美術館、2010年)のカタログ。それに、美術史というととても特殊な専門領域のような気がするかもしれません。でも、イメージの歴史学がおもしろくないはずはありませんし、そんな狭い世界のわけがありません。美術といってもヨーロッパばかりでなく、日本、中国、イスラームを専門とする教員や学生も、ここにはいます。扱う時代も古代から現代まで。ある意味で、これほど奥行きの広い学問もそうないと思います。講義と演習を通じて、基本的な研究文献や史料をきちんと読む訓練ができるとともに、美術史研究の先端がどんなことになっているのかに触れることもできます。しかし、何より重要なのは物を見ること。研究室では毎年、たいていは数日の関西見学旅行をしています。東北、九州、台北、北京、韓国に出かけたこともありました。旅行嫌いという人にだけは、向いていない学問かもしれません。10