文学部の新しい試み

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ご覧のように、このたび文学部・人文社会系研究科のホームページが一新しました。これを機会に私たちの新しい試みについていくつか紹介することにしましょう。

まず第一に、新しいホームページの誕生を率直に喜びたいと思います。これまでの「案内板」を豊かで有益な情報発信の場に改めること、これは年来の課題でした。いまようやくその出発点に立ったという思いです。これから内容の充実に努めていきますので、今後ともどうかよろしくお願いします。

第二に、文学部・人文社会系研究科では、今年2010年から「次世代人文社会学育成プログラム」を開始します。これは日本学術振興会の「組織的な若手研究者等海外派遣プログラム」に採択されたことを受け、向こう3年間におよそ98名の学部学生、大学院生、若手研究者を世界各地の大学や研究機関に派遣しようというプログラムです。これまで文学部が海外に派遣することのできる学生はきわめて限られていましたが、これによって東アジア、ヨーロッパ、北米地域への留学や研修の可能性が大きく開かれます。これは濱田総長の提唱される「タフな東大生」育成計画の一環をなすものともいえます。

第三は、文学部生のための新しいスペース、「三友館」の開館です。これは、これまで勉学や談論のスペースに恵まれなかった文学部学生の環境を改善するために、法文2号館3番大教室を改修したもので、今年の1月20日に開館しました。 三友館は、三つの部分からなっています。第一は自習室で、室内にはインターネットの利用可能な63席が備えられ、窓からは安田講堂や季節の移ろいとともに彩りを変える銀杏並木を望むことができます。ここは、三四郎池に臨む文学部図書室の布文館と並んで、文学部で最高のスポットといえます。第二はディスカッション・ルームで、組み合わせ可能なテーブル(20卓)と移動可能なイス(32脚)が備えられ、利用者のニーズに応じて自在な形を整えることができます。第三は、これらに隣接するホワイエで、休憩や雑談のできる数卓のテーブルの脇に230個のロッカーが備えられています。

なお、三友館の名称は、論語季氏篇の益者(えきしゃ)三友(さんゆう)の説に因んだものです。「孔子曰く、益ある者に三友あり。直(なお)きを友とし、諒(まこと)あるを友とし、多聞(たぶん)なるを友とすれば、益あらんと」がその出典です。是非、ここで一生の「三友」を得てほしいと思います。

文学部・人文社会系研究科で営まれる人文学の対象は、とてつもなく広く、用いる方法も多様です。そして、いったん探求を始めると、その道はきわまりない深みへと入っていくことがわかります。先の海外派遣プログラムは「若手研究者大航海プログラム」ともいいますが、人文学を志すとは、まさに時空を超えた人間の思想や営為という広大な海に向かって船出していくようなものです。その航海は、文献を読むにせよ、社会調査を行うにせよ、地道な努力を必要とし、実学や実利とはおよそ無縁のこととなるでしょう。しかし、その経験は人間と社会を見る確かな眼を鍛えてくれるにちがいありません。文学部の新しい試みが、このような船出の助けとなることを祈っています。

文学部長・人文社会系研究科長(2009-2010) 小松久男