本ワークショップは、佐藤次高代表の提案により企画され、イスラーム地域研究プロジェクトの最初のワークショップとなった。企画・運営には、三浦 徹（総括班）とジョン・フィリップス（弘前大学助教授、総括班研究協力者）があたった。
ａ．趣旨
奴隷出身のエリート、官僚、支配者というしくみは、アンダルスから東南アジアまで数世紀にわたって共通に見られる。本ワークショップのねらいは、中東・アフリカ研究の専門研究者が集い、奴隷エリートに関する次の諸点について検討し、各地域における異同に配慮しながら、奴隷エリートとイスラームの超域性と普遍性を明らかにすることである。
1-奴隷軍人・官僚の民族的起源と奴隷軍人システムの導入の原因
2-奴隷エリートの法的地位の役割
3-奴隷エリートの言語・文化的アイデンティテイ：その出身社会および支配する社会との関係性
4-奴隷エリートの経済活動
5-奴隷エリート・システムとイスラーム文明の相関性ｂ．組織
以上の趣旨を記した第1次サーキュラーを、99年4月に本プロジェクトのメーリング・リストを使って配布した。配布の翌朝には、米国の研究者より3件の応募があり、5月15日までに10件をこえる応募や紹介があり、これらは、サーキュラーが外国人の研究者間のメーリング・リストに転送されたためであり、予想外の反響には驚かされた。
参加条件としては、航空賃は自弁で調達すること、滞在費についてはプロジェクトが負担することを原則とした。従来の日本で開催される人文系の国際会議では、主催者が発表を依頼し旅費・滞在費の双方を負担して招聘する方式がとられることが多く、親密ではあるが公開性に欠けるきらいもあった。99年度に開催予定の本プロジェクト主催の国際会議では、広く自主的な参加者を募る意味で、発表者の公募方式をとることとし、今回のワークショップでも試験的に公募を行った。
結果としては、総括班からの招聘8名（うち5名は航空賃を自弁、１名は滞在費を自弁）、２班からの招聘１名、計９名の海外参加者をうることができ、当初の予定よりも、多彩な顔ぶれとなった。ｃ．報告と討論
報告者12名（うち日本人報告2名）、議長3名を加えた計15名をパネリストとして、ワークショップを開催した。報告者には、事前にフル・ペーパーの提出をもとめ、会場では、参加者すべてに、ペーパーのコピーを配布することができた。報告は、時代的には、アッバース朝時代から19世紀のソコト王国まで、地域的には、イラク、エジプト、トルコはもとより、アンダルス、モロッコ、西アフリカまでをカヴァーし、軍事、政治、経済、文化の諸側面にわたり、問題が提起された。フロアーには、２日間にわたり、30-40名の参加者があり、質疑・討論も活発で時間が不足するほどであった。運営にあたっては、中町信孝（東京大学大学院）をはじめとする大学院院生の協力によった。
プログラムは以下のとおり。10 Oct., Sat.
10:00-10:30
Keynote Speech:
SATO Tsugitaka (The Univ. of Tokyo, Japan), Slave Elites in Islamic History
Part 1: Origins
Chair: GOTO Akira (The Univ. of Tokyo, Japan)
10:30-11:10
Matthew GORDON (Miami Univ., USA), The Turkish Military Elite of Samarra and the Third Century Land Tenure System
11:10-11:50
SATO Kentaro (The Univ. of Tokyo, Japan), Slave Elites and the Saqaliba in al-Andalus in the Umayyad Period
13:30-14:10
Jan HOGENDORN (Colby College, USA), Economic Aspects of the 'Manufacture' and Sale of Eunuchs
14:10-14:40
discussion
Part II: Power
Chair: John PHILIPS (Hirosaki Univ., Japan)
15:10-15:50
Nasser O. RABBAT (MIT, USA), The Evolution of the Concept of Mamluk after the Founding of the Mamluk State in Egypt
15:50-16:30
Sean STILWELL (York Univ., Canada), The Power of Knowledge and the Knowledge of Power: Kinship: Community and Royal Slavery in Kano, 1807-1903
16:30-17:00
Discussion
11 Oct., Sun.
Part III: Networks
Chair: Jan HOGENDORN (Colby College, USA)
10:00-10:40
Dror ZE'EVI (Ben Gurion Univ., Israel), My Slave, My Son, My Lord: Slavery, Family and State in the Islamic Middle East
10:40-11:20
Carl PETRY (Northwestern Univ., USA), Waqf as an Instrument of Investment in the Mamluk Sultanate: Security vs. Profit?
11:20-12:00
John PHlLIPS (Hirosaki Univ., Japan), The Persistence of Slave Officials in the Sokoto Caliphate
12:00-12:30
Discussion
Part IV: Transition
Chair: KURITA Yoshiko (Chiba Univ. , Japan)
14:00-14:40
Fatima HARRAK (Univ. of Mohamed V, Morocco), Slaves, Haratin or Free Men?, Controversy about the Legal Status of Mawaly Isma'il's Jaysh al-'Abid
14:40-15:20
Ehud TOLEDANO (Tel-Aviv Univ., Israel), The Concept of Slavery in Ottoman and Other Muslim Societies: Dichotomy or Continuum?
15:40-16:20
Ahmad SIKAINGA (Ohio State Univ., USA), Comrades in Arms or Captives in Bondage? Sudanese Slaves in the Turco-Egyptian Army, 1821-1865
16:20-16:40
Discussion
16:40-17:00
Concluding Remarks:
MIURA Toru (Ochanomizu Univ., Japan)ｄ．プロシーディングスの刊行
ワークショップでの討議をふまえ、報告者から最終ペーパーの提出を求め、Slave Elites in the Middle East and Africa(edited by MIURA & John Philips) をIslamic Area Studies Seriesの第１巻として、1999年12月に刊行する予定である。