イスラーム地域研究
回顧<The Dynamism of Muslim Societies>

緒言

森本一夫

(北海道大学助教授)


 

 「イスラーム地域研究」は来年3月をもってその5年間の活動を終了する。そこで、この5年間に何が達成され何が達成されなかったのかを総括し、あらためて日本のイスラーム研究の未来を構想する狙いをこめて、去る10月5日から8日にかけて国際会議「ムスリム諸社会のダイナミズム The Dynamism of Muslim Societies」が開催された。「イスラーム地域研究」と様々なスタンスで関わりを持つ多くの研究者・学生が都会の喧噪を離れ、かずさアカデミアパーク(千葉県木更津市)に半ば合宿のような形で集まり、語り、聴いた。

 さて、「イスラーム地域研究」研究班5では、1999年に開催された国際会議「境界を越えて Beyond the Border」の際に、大学院生による会議の参加記集を作成し、まずは同班のホームページ(http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~5jimu/beyond_the_border/index.html)で、次いで冊子の形(『回顧 Beyond the Border:京都国際会議の報告』イスラーム地域研究 研究班5.2000)で、公開した(14本の参加記を収録)。

 この企画は、参加記提出を前提として旅費の援助を行うことにより、(1) 経済的な理由からこの企画がなければ参加を諦めていたであろう大学院生たちにも道をひらいたことや、(2) そうして会議に参加したとしても、ともすると受動的に会議を「見物」しがちになる彼らに対し積極参加を促すモティヴェーションを与えた点など、いくつかの成果をもたらしたと考えている。

 そのような成果が認められてのことであろうか、今回の国際会議に際しても、事前の運営会議の過程で、同様の企画を実行することが決定された。しかも、前回はあくまで5班だけの企画であったのを、今回は「イスラーム地域研究」全体の企画とし、院生の推薦や旅費の支給は各班が、提出された参加記のとりまとめなどは研究班5が担当することになった。その結果計41名の院生参加者がこの企画に参加するはこびになった。

 これだけ多くの参加者がいれば参加記にもヴァリエーションを設けられる、参加記集作成担当の5班ではそう考えた。なにせ41名の戦力に比してセッションは7つ、それに初日の公開講演や最終日の総括討論を加えたとしても9つにすぎないのである。そこで、会議全体を自分の切り口で批評する全体参加記、1つのセッションを単独で報告するセッション単独参加記、1つのセッションを2名で担当するペア参加記という3つのカテゴリーを作ることとした。このうち、全体参加記と単独参加記は前回の企画の際の方式の踏襲であるが、ペア参加記は新たな工夫である。参加者各人に担当希望を問い合わせた際には、単独参加記作成の作業工程を単純に2人で分担するのではなく、1人の脳味噌からは出てこないようなものを2人で力を合わせて作成してくれるようにと注記した。

 参加記の締め切りは会議の約1ヶ月後にあたる11月5日とし、webページへの掲載作業がすみしだい先着順に掲載することとした。このページがアップされる段階ではおそらく全ての参加記が掲載されているわけではないだろうが、それはただいま難産中のものであるとお考えいただきたい(早く元気な子供を産んでもらいたいものだ)。掲載に当たっての校閲作業は、あきらかな誤字・脱字や「てにをは」の誤りを気づいた範囲で訂正するだけにとどめ、内容的な「査読」はほぼ行っていないと言っていい。院生諸氏のナマの声をお楽しみいただきたい。

 


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