イスラーム地域研究(IAS) 6班 イスラーム関係史料の収集と研究
アラビア語写本史料研究会

海外派遣出張報告

<出張者>

谷口淳一

<派遣先>

エジプト カイロ
・アラビア語写本研究所(Ma`had al-Makhtutat al-`Arabiya)
・エジプト国立図書館(Dar al-Kutub al-Misriya)

<期間>

2001年8月20日〜9月3日

<経過>

8月20日(月)午後、関西空港を発ち、同日夜、カイロに到着。
8月21日(火)日本学術振興会カイロ研究連絡センターを訪問し、センター長の保坂修司氏から現地の研究機関利用や資料収集についての情報提供を受ける。
8月22日(水)在エジプト日本大使館へ赴き、研究機関利用のための紹介状発行を依頼する。
8月23日(木)在エジプト日本大使館より紹介状を受け取る。同日より休日(金曜日)を除く毎日、アラビア語写本研究所(以下、写本研と略す)およびエジプト国立図書館(以下、国立図書館と略す)にて文献の調査と収集を進める。
9月1日(土)書籍の発送など帰国の準備。
9月2日(日)午後、カイロを出発。
9月3日(月)午前、関西空港に帰着。

<調査の概要>

 まずIAS第6班のアラビア語写本史料研究会で研究を進めているHilal al-Sabi著『Rusum Dar al-Khilafa』の写本フィルムの確認をおこなった。現在研究会で利用しているものは、2000年3月に大稔哲也氏のご協力を得て複製を入手した写本研所蔵フィルム(Tarikh234)である。これは目録未収録作品一覧(Qawa'im Musannafa Ghayr Mufahrasa)に挙げられているもので、原本はアズハル図書館(Maktabat al-Azhar)に所蔵されている(番号911)。フィルム複製の労を執って下さった大稔氏から、このフィルム以外に2点、Tarikh420とTarikh502という番号を持つ同じ表題のフィルムが一覧表に記載されているとのご教示を得たが、フィルム現物は未確認であるとのことだった。そこで今回この2点のフィルムを実見し、我々が入手したTarikh234と同じ写本を撮影したフィルムであることを確認した。ただし双方とも状態はあまり良くなく、Tarikh234が3点の中で最も良好なフィルムであった。なお、アズハル図書館は利用手続きにかなり時間を要し2週間程度の滞在では利用が不可能なため、原本の確認は見送った。

 さらに、以下のような文献調査をおこなった。まず『Rusum Dar al-Khilafa』の研究に関連して、同書と比較しうる書記術に関する文献を調査した。この種の作品の集大成とされるal-Qalqashandi(d. 1418)の『Subh al-A`sha』以前の作品に絞り、最終的に以下の3点の作品を複写して収集した。いずれも国立図書館所蔵の活字本であるが、日本では公共の図書館における所蔵が確認できなかったものである。
 `Abd al-Rahim `Ali b. Shith al-Qurashi (13c) 『Ma`alim al-Kitaba』(Ed. by Q. B. al-Makhlasi) Bayrut, 1913.
 Diya' al-Din Ibn al-Athir (d. 1239) 『Rasa'il Ibn al-Athir』(Ed. by A. al-Maqdisi) Bayrut, 1959.
 `Abd al-Hamid b. Yahya (d. ca. 750)「Risala ila al-Kuttab」[M. K. 'Ali (ed.)『Rasa'il al-Bulagha'』al-Qahira, 1908 所収].
 
 上記の研究と並行して進めている伝記(集)の研究の一環として、Ibn Shaddad (d. 1234) 著『al-Nawadir al-Sultaniya wa-l-Mahasin al-Yusufiya (サラーフ・アッディーン伝)』の写本マイクロフィルム2点を写本研にて収集した。原本の所在は、エルサレムのアクサー・モスク(al-Masjid al-Aqsa, 595 Siyar Tarikh)と上エジプトのソハーグ図書館(Suhaj, 12 Tarikh)である。本書はすでにJ. al-Shayyalによって校訂本が出版されており、アクサー・モスク所蔵本はその底本であるが、ソハーグ図書館所蔵本は用いられていない。

 この他、谷口が以前から取り組んでいるハラブ史の史料として、以下の写本2点を複写した。
 Ibn al-Mulla al-Halabi (d. 1602) 『Nihayat al-Arab min Dhikr Wulat Halab』(ハラブ総督史の断片)写本研, Tarikh1294.
 Sibt Ibn al-`Ajami (d. 1479)『Kunuz al-Dhahab fi Tarikh Halab』(ハラブ地方史)国立図書館, h9638, h9639, h9640.

 上記以外に、両機関の出版部門や市中の書店にて最近出版された研究書や史料の校訂本などを購入した。

<研究機関に関する情報など>

 写本研では世界各地に所蔵されているアラビア語写本のマイクロフィルムを閲覧・複写できる。すでに何冊もの目録が出版されているが、目録に収められていないフィルムも多い。しかしそのようなフィルムも、閲覧室に備え付けられている目録未収録作品一覧で調べることができる。目録の出版も継続されており、今年中にTarikhの第5部と第6部が出版されるとのことであった。また同研究所では1997年から毎年、写本に関する会議を開催しており、第2回以降については会議録が出版されている。
 写本研でも国立図書館でも、書誌情報の電子データベース化が進められている。国立図書館の写本部門では入力作業が終了したと聞かされたが、私が閲覧室の端末で検索を試みたときはうまく利用できず、結局カードで調べざるをえなかった。写本研の方はまだ入力作業が終わっていないということであった。両機関の蔵書(フィルム)の電子データベースが完成し、できればオンラインで検索できるようになってほしいものである。


担当:谷口淳一
E-mail: taniguti@kyoto-wu.ac.jp
2002.2.1 作成