2001年5月26日(土) 於:東京大学文学部アネックス
発表者:磯貝健一(京都橘女子大学非常勤講師)
題目:前近代中央アジアのマドラサのカリキュラムについて−−ペルシア語文書史料をつかったこころみ
    
レジュメ (PDFファイル)

内容:
  ウズベキスタンとロシアの関係諸機関に収められている古文書を用いて前近代中央アジアにおける知的活動を明らかにする報告であった。以前から磯貝氏が取り組まれている書籍のワクフ文書の他、サンクトペテルスブルグの東洋学研究所所蔵の「ムダッリスの担当授業一覧」および「学生の心得」が取り上げられた。
  19世紀ブハラのものと思われる「ムダッリスの担当授業一覧」に見える授業で用いられたテキストが一つ一つ同定され、15世紀以降、ほとんど内容に変化が見られないことが明らかとなった。また、各マドラサで一人の教授がどのような割合で授業を担当したかも示された。一方、「学生の心得」では一人の学生がどのような順序で学問を学習していったかが、明らかになった。両文書ととも、従来紹介されていない珍しい文書であり、校訂テキストや文書の配置も示され、非常に興味深いものとなった。
 質疑では、小松久男氏よりフィトラトの自伝のマドラサ関係の部分が紹介され、文書の内容と驚くべき合致を見せ、その真正さが証明された。また、「担当授業一覧」の単位である"dars"を磯貝氏は「コマ」と解釈されていたが、「コマ」概念そのものが西欧近代的なものでないかという指摘が出た。より情報の多いオスマン朝との比較を含めて、活発な議論が行われた。                              (文責:近藤信彰)