イスラーム地域研究国際シンポジウム
(2001年10月5日-8日、千葉県木更津市)
報告書


上智大学大学院外国語学研究科
地域研究専攻博士前期課程

 若松大樹(わかまつ ひろき)

 本稿では、木更津にて行われたイスラーム地域研究に関する国際会議に関してコメントを述べることにする。
 本稿筆者にとって、この国際会議の第二セッションが特に興味深かった。というのは、筆者が自身の修士論文のテーマとして選んだのが、現代トルコにおける「アレヴィー」のアイデンティティー問題に関する人類学的考察であり、当該セッションも、主に人類学の分析が中心的な議題であったからである。
 当該セッションにおいては、ムスリム社会における公共領域(Public Sphere)の広がりと、メディアの発達によって生じた様々な変化、特にジェンダー問題について広範に、各方面様々な研究の方々によって議論されていた。
 筆者は特に、当該セッションで発表されたJ.アンダーソン氏の議論を、今後の修士論文執筆に活用したいと考えている。
 アンダーソン氏は、インターネットメディアの普及によって、ムスリム社会における公共領域が広がったことと、それに伴うムスリム社会の変容を論じた。
 筆者は、インターネットメディアという世界規模で広がる媒体を分析対象とした点に、非常に感銘を受けた。
 さて、筆者が修士論文のテーマとして選択した「アレヴィー」は、現代トルコにおいて重要な宗教的(あるいは民族的)マイノリティーを構成している。にもかかわらず、彼らの正確な人口統計は未だに存在していない。非公式のデータによれば、彼らはトルコ共和国の総人口の約20%を占めているといわれている。
 「アレヴィー」は、その言語的、民族的、イデオロギー的多様性から、ナショナル(あるいはエスニック)アイデンティティーに関する定義が最も錯綜している「民族(あるいは宗派)」のひとつである。つまり、「アレヴィー」概念に、単一で共通の理解は現在に至るまで存在していないのである。そうした多様性から、彼らのアイデンティティーの定義をめぐって、尽きることのない論争が繰り広げられているのである。
 公共領域の広がりとメディアの発達と言う現象は、言うまでもなく現代トルコにおいても生じている現象である。特に現代トルコにおけるアレヴィーたちは、1980年代後半から始まった政治的、経済的自由化政策、言い換えれば検閲の規制緩和政策によって、次々と出版メディア、ウェブサイト、テレビ・ラジオなどのメディアの上に現われてきた。
 そうした過程で、アレヴィーたちは様々に自己を主張し始め、自らの政治的あるいは経済的、社会的立場に応じて、様々にアイデンティファイしていくという現象が顕著になってきている。そうした状況を踏まえ、当該セッションにおいて行われた議論を修士論文の足がかりにしたいと考えている。