DR.アスガル・アリー・エンジニアー氏講演会
(2001年11月16日)
報告書

冨樫 茂
(上智大学大学院)

 Asghar Ali Engineer氏は2001年11月16日に上智大学アジア文化研究所主催の講演会で有益な講演をした。Engineer氏は最近の米国連続テロ事件ならびに米国などによるタリバーン支配下であったアフガニスタンへの攻撃に関して以下のような考察をした。
ブッシュ米国大統領は米国連続テロ事件の容疑者はウサマ・ビン・ラーディン氏や彼が率いるアルカイダであるという明確な証拠も示さずにアフガニスタンを攻撃し、ブッシュはアフガニスタンへの攻撃を「十字軍」であると述べた。そのような見解は、まさにハンチントンの「文明の衝突」に象徴されるように、キリスト教社会とイスラーム社会との対立、それもキリスト教社会は「善」でありイスラーム社会は「悪」である、しかも全てのムスリムはテロリストであるような根拠の無い偏見を助長させるものである。さらに、世界的な影響力を及ぼす事の出来るメディアは、批判的に視聴することを怠れば上記のような偏見を助長させることになろう。
しかし、Engineer氏は全てのムスリムはこのようなテロ行為を行わず、イスラームはテロ行為を容認もしくは奨励するような教義は一切存在しないと述べた。テロ行為は極めて政治的な行為であり、宗教的な教義に基づくものではない。すなわち、もし宗教上の「敵」に対してテロ行為や暴力を伴うような物理的な攻撃を実施することがイスラームの教義に則った「ジハード」であるとする教えを流布しもしくはそのような行為を実行する者は、イスラームを正しく解釈し実践しているものではない。また、中東・イスラーム世界においてテロ行為など物理的な行動を伴うか否かはともかく、根深い反米感情が生じている背景として、パレスチナ問題ならびに中東和平プロセスなどが未解決であることが挙げられる。例えば、サッダーム・フセイン・イラク大統領は、湾岸危機が生じた際にパレスチナ問題の解決を訴えた。けれども、イスラームにはキリスト教のようにユダヤ教ならびにユダヤ教徒に対する差別や偏見や迫害を助長もしくは奨励するような教義は一切存在せず、ただパレスチナの地を奪う事になった政治的シオニズムに対してのみ反対しているとEngineer氏は述べた。
 最近のアフガニスタンやパキスタンの情勢に関して、国内外のメディアはどうしても戦況の状況や今後のアフガニスタンの新秩序など「報道」の特性ゆえかどうしてもタイムリーで表面的なことに偏りがちである。しかし、Engineer氏はそのような情勢が生じることになった宗教的な背景にまでわかりやすく説明をして下さった有益な講演であった。