「イスラーム地域研究」第2班a・b合同研究会(第1回)報告

日時:2001年7月7日(土)13:00−18:00
会場:上智大学 10号館322教室
主催:イスラーム地域研究 第2班

発表者:小池利幸(東京外国語大学大学院)
        アルジェリア抗仏闘争に見る「ジハード」の概念(試案)
    
    :鈴木恵美(東京大学大学院)
        支配機構としての国民民主党の限界−2000年人民議会選挙報告−


 まず、小池氏の発表は、アルジェリア・ムスリム・ウラマー協会の2人のイスラーム改革思想家の著作を通して、アルジェリア抗仏闘争の連続性を「ジハード」の概念に注目して分析した発表であった。
 その思想分析にはウラマー協会のリーダーであったイブン=バーディースとムハンマド・アル=バシール・アル=イブラーヒーミーのアラビア語史資料を読み解き、アルジェリアの独立戦争が、19世紀後半からの諸反乱の脈絡の上に起こったものであり、それが独立後のFISの活動にまで繋がることを明らかにした。
 それ対して、参加者からは小池氏が専門とする思想家に関する基本的質問、当時のアルジェリア社会状況の確認から始まって、上記思想家の批判対象でもあったスーフィズムとの関連や、より「カウミーヤ(民族主義)」の側面に注目すべきではないかといった分析枠組みに関する質問にいたるまで、様々なコメントが寄せられた。とくに、議論の終盤では、論中で示された「アミール・アル=ムウミニーン」の捉え方に関し、マグリブにおけるその脈絡の特殊性が指摘され、議論がわいた。これまでのわが国のマグリブ現代研究はフランス語文献を使ってなされてきたが、小池氏の発表はアラビア語の一次資料を用いたものであり、その意欲と努力を高く評価する声が多かった。

 次に、鈴木氏の発表は、2000年にエジプトで行われた人民議会選挙の分析を通して、現代エジプトにおける社会支配「集団」としての国民民主党に焦点を当てた発表であった。
まず、エジプトにおける選挙制度の概略を示した上で、選挙運動、投票行動、選挙結果を基にして上記選挙の分析が行われた。それにより、国民民主党が議席数を減らしたのに対して無所属が議席数を増やした要因を各側面から明らかにし、最後にその考察結果から導き出せるであろう展望として、社会支配「集団」としての国民民主党の「安定性」と「限界」が提示された。
 それ対して、参加者からは鈴木氏が焦点を当てた選挙のテクニカルな領域に関する質問および、発表者が巨視的には「民主化」という枠組みを踏まえていることに関する質問に至るまで、様々な問いが投げかけられた。とくに、「ムスリム同胞団」側からの視点と解釈が十分ではないという疑問も提示されたが、わが国における本格的な現代エジプト政治研究として大いに注目される発表であった。

 約25名の参加者を得て行われた本研究会では、両発表者とも、最終的な結論を提示する性質の発表ではなかったが、あらゆる展望を示唆しうる多くの指摘、活発な議論が展開され、両発表者による最終的結論に期待が寄せられ、本研究会は終了した。
 
[報告者:林博之]