●cグループ「聖者信仰・スーフィズム・タリーカをめぐる研究会」(第3回)

日時:2002年1月12日(土)13:30-17:30
場所:上智大学四谷キャンパス10号館323
報告者:1.中西竜也(京都大学大学院文学研究科歴史文化学専攻東洋史学専修修士課程)「中国におけるスーフィズム−特に漢文イスラーム文献を中心に−」
2.ディスカッション:今後の研究会の展開について

報告:
 今回の研究会では、前半は中西竜也氏による中国のスーフィズムに関する研究発表、後半は今後の研究会のあり方についての議論がなされた。
 中西氏はまず、中国のスーフィズムおよび漢文イスラーム文献についての詳細にわたる解説を行い、その後漢文イスラーム文献の分析・ペルシア語原典との比較を通して見られるスーフィズムの「中国化」の問題を論じた。中国のスーフィズムは、門宦(タリーカ)主導のもとに主に西北部で展開された系統と、経堂教育及び漢文イスラーム文献を媒体として主に内地・沿岸部で実践された系統とに分類される。このうち中西氏が扱ったのは後者である。経堂教育は、明代後期に自然発生的に出現したイスラーム教育制度であり、清真寺(モスク)を中心にして行われ、門宦との結びつきは弱かった。漢文イスラーム文献は、アラブ・ペルシア語文献を漢文に全訳、あるいは要約・編纂したものであり、イスラームの様々な側面について解説したものであった。
 本来スーフィズムの修行はシルシラによって権威付けられたシャイフによる指導を必要とするが、清真寺を中心とする中国ムスリムのコミュニティにはそのようなシャイフが存在しなかった。中西氏は、彼らが代わりに学問の有無をシャイフの条件とすることでその問題を解決していたとし、そこにスーフィズムの「中国化」が見られるとした。
 参加者からはまず中国のイスラームやスーフィズムに関する全般的な質問が多くなされた。また「中国化」の問題に関しては、知識の伝達のあり方についての地域的・時代的多様性や共通性が議論された。
 後半は今後の研究会のあり方について、参加者の間で自由な意見交換がなされた。まず基本的な事柄として、イスラーム地域研究プロジェクト終了後も本研究会が継続して開催されることが確認された。その上で、研究会の今後の性格や成果のあり方について議論がなされた。研究会のテーマとしては、今後はスーフィズムや聖者信仰だけでなくタリーカにも焦点を当ててゆくことが提案された。その一方で、主に対象地域について本研究会がより広い視野を持って行われることの必要性も述べられた。成果については、特にその中・長期的な目標について様々な構想が示されたが、具体的な目標設定にまでは至らなかった。
 今回の発表では、中東研究者の多くには馴染みの薄い中国という地域が舞台となったが、発表者の配慮と、スーフィズムという共通の概念・問題意識に支えられて、参加者は活発な議論を行うことができた。これは今後の研究会のあり方を考える上でも重要なヒントとなるだろう。
(報告:高橋圭、上智大学大学院外国語学研究科地域研究専攻博士後期課程)