IAS2班b第3回研究会報告

IAS2班bの第3回研究会(2月17日午後1時半から5時半、於:宇都宮大学)では、大円(たまる)氏の「マレーシアの稲作農業」とアブドル・ケイワン氏の「イランの石油経済」に関する2つの報告が行われ、活発な議論が行われた。
以下はその報告要旨である。

1.大円政一氏(宇都宮大学大学院国際学研究科)報告
「マレーシア経済における稲作農業の変容―ムダかんがい地区の事例より―」の要旨

 マレーシアの農業政策は1957年独立後、米の完全自給率を目指して、水稲の二期作化、湛水直播方式の普及を推進した結果、1980年米自給率98%とはぼ目標を達成するに至った。しかし、その後マレーシアは一次産品輸出から輸出工業国へと転換する形で経済発展を成し遂げてきたため、稲作農業は労働力の減少、高齢化による各地での耕作放棄地の増加などにより、米自給率の低下を招き、稲作農業は変化を余儀なくされた。
 この報告では政府が示した方向性を見極め、稲作農業の現状と課題を明らかにしようとした。まず、1980年以前の稲作農業の基本政策とする、自給化への努力と貧困対策、かんがい用水、土地問題等を考察した後、1980年以後の各地で起きている耕作放棄、農業補助金制度、農業税とザカット制度等を通じる稲作政策の転換に注目した。1984年に制定したマレーシア国家農業政策大綱では、2000年までの農業開発政策の基本方針を定め、米自給率にあっては80〜85%へと下方修正した。しかし、1993年には第2次農業政策大綱を公表,続いて1998年には第3次国家農業政策大綱が矢継ぎ早に発表され、米の基本的政策である自給率はさらに65%に引き下げられた。
 このためには半島マレーシアの8つの穀倉地帯を稲作専用地と指定し、単収増、作付増にて達成しようとしている。上記政策の具体的な実現を図るために、第7次マレーシア計画でこれらの方針を農業開発予算にどのように反映させているかを明らかにし、その課題の持つ意味を考察した。ここでは特に新規土地開発と既存地再開発の予算が大幅に減額される一方、かんがい及び洪水対策の予算は倍増されるなど土地利用型農業から高収益の商業的農業へ推進が向けられているのがわかる。このことは、小農部門の稲作農業の水対策(かんがい用水)が、いかに重要かを如実に現している。マレーシアの稲作農業の検証をするに十分な最近の調査が欠如しているのに鑑み、2度にわたって行った稲作農業の実態に関する現地調査もこのことを明らかにしている。
 政府が稲作農業に対し基本的政策目標の1つとして位置付けている貧困解消についても注目したが、大きな問題である耕作放棄地は依然として耕作可能面積の20%前後ほど存在し、小農のなかでも耕作面積1ha未満の農家の貧困解消がかなり難しいことは、今回の調査でも裏付けられた。今後は経営面積の規模拡大が如何にして達成出来るかが、最大の課題となってくると見られる。

2.アブドル・ケイワン氏(東大大学院経済学研究科)の報告
  「イランの石油収入と経済開発:二つの時代の比較」の要旨
 イラン経済において、石油収入はまさに血液のごとき役割を果たしている。国家財政や輸入の大部分が石油収入によって賄われている。また通常の経済運営のみではなく、長いパースペクティブでみた経済発展(工業化)の進捗も当面、石油収入を抜きにして語れない。さらに、原油価格形成に見られる移り気的傾向は、政策形成の段階においても、また経済実態においても、過大とも言える影響を及ぼす。
 その一つの例は、後の革命の条件を形成した一つの要因ともいえる1973年の石油ブームであり、その際膨大な資本が国内経済に流入し、その使い道に関して、一方では官僚(企画・予算庁)内部で、他方ではシャー自身をはじめとする権力者と官僚との間の対立が起き、結局、政治権力からの官僚の独立性が大きく侵害されたかたちで、ビッグ・プッシュ的な開発路線に帰着してしまった。そして、膨大な資本を効率的に吸収する人的及び物的インフラが不足していた当時のイラン経済は、高い物価上昇に直面し、経済政策の失敗は、ある意味で政治的不満を起こす引き金となった。
 1999年末からの原油価格の高騰という出来事も、イランの政治・経済に及ぼす影響という点を、同様な視点から分析することができる。「予測されてなかった」石油収入の急増は、政治権力の闘争を背景に、2001年度予算の立案・審議で議論の対象となった。結局、長期的な経済政策の枠組みのはずである第3次五ヶ年計画は、政治的な利害の犠牲になってしまった。たとえば、五ヶ年計画で、”将来の蓄え”として設置されていた「余剰石油収入預金口座」の項目は修正させることによって、政府は、今年の収入の一部を即座に支出できるようになった。その理由の一つは近づいている大統領選挙で、「改革派」は現在の不況を政府批判の材料としている「保守派」の攻撃をかわすためであると思われる。石油収入への依存度が高いイラン経済は、原油価格の高騰でもって、最近の4ー5年間の不況から、一時的に脱することができると思われているが、同時にその弊害を軽視するはできない。例えば弊害の一つは、政府は経済状況の緩和に甘んじて、経済改革の必要性と改革によって引き起こされる社会問題を比較し、今の「余裕」を利用して、社会安定の重視の名のもとに経済改革をさらに延期する恐れである。

(文責:清水学)