IAS2 国際ワークショップ「ムスリム地域における民衆と民衆運動」 報告
(午前セッション)
*午後セッション及び総合討論については追って報告いたします

場所:京都外国語大学6号館6階 663号室
日程:11月26日(日)研究・討論会
    9時〜12時 歴史の中の民衆と民衆運動 

発表者
森山央朗(東京大学)
"The People surrounding Ulama: from descriptions of the Histories of Nishapur
(ウラマーを取り巻く人々:ニーシャープール史の記述から)"

下山伴子(東京外大・学振、特別研究員)
"A Religious Controversy and People in Twelfth Century Iran: from The Book of Refutation
(12世紀イランの宗派論争と民衆)"

Boaz Shoshan(Ben Gurion University, Israel)
"Popular Subversion As a Cultural Model in the Mamluk State"

コメント:三浦徹(お茶の水女子大) ディスカション


森山氏は、『ニーシャープールの歴史』T?r?kh-i Naish?b?r に基づいて、10世紀後半から12世紀のニーシャープールの民衆と民衆運動及びウラマーの関係を描き出した。森山氏によると、民衆はその史料には、n?s, khalqといった語で言及され、ウラマーを尊敬する人々として現れる。民衆は優れたウラマーの学問と徳を尊敬し、ウラマーの支持者として、ウラマーに食べ物や金を提供し、危機に際してウラマーの指導に従う。また優れたウラマーの遺骸や墓は、神聖なものして民衆の崇敬の対象となっている。このような民衆による優れたウラマー(死者も含めて)やその遺骸・墓の崇敬の理由は、ウラマーの所持するハディースの知識にある。ハディースは預言者の聖遺物であり、民衆はその知識に精通するウラマーを神と預言者に近いものとして敬愛している。
 質疑応答では、人々がウラマーを尊敬するのは宗教的理由(ハディースの知識)からだけなのか。経済・政治その他の要素も考慮すべきではないのか、といった質問がなされた。
 下山氏は、『反駁の書』The Book of Refutation の分析から12世紀イランの宗派論争と民衆の関係を考察した。下山氏によると当時のイランの宗派対立は、各宗派に幅広い読者や聴衆に支持を訴える必要を生じさせた。『反駁の書』はその意図に基づいて、シーア派(12イマーム派)のウラマー、アブド・アルジャリール・カズウィーニー・ラーズィ ‘Abd al-Jal?l Qazw?n? R?z? によってレイのシーア派に対するスンニー派の非難を論駁するために書かれた。その書は、ペルシャ語、会話調、平易な文体で書かれている。質疑応答では、非宗教的要素の存在やcommon peopleのオリジナルターム aw?mm についての質問がなされた。
Shoshan氏は、「ナウルーズ将軍」Emir of Nawruz、「ハラフィーシュ」harafishとそのスルタン、「アミール・ウィサール」の三つの事例を「逆さまの儀式」と見なし、それらすべてを普段は抑圧されたエジプト社会内の緊張や対立のはけ口と位置づけた。またそれらの「逆さまの儀式」は支配者にも容認されていたという。質疑応答では、Cultural Modelという語の含意、Subversionは一時的なものではないのか、といった問題が議論された。
 三浦氏は、民衆とウラマーの定義・区別、指導者が民衆を動因する方法、ニーシャープールのウラマーの学識の社会的・政治的意味、Subversionはマムルーク朝のエジプトに特有の現象かといった問題を提起し、ディスカッションへと移行した。ディスカションではハイ・カルチャーとカウンター・カルチャーの関係、笑いはSubversionかといった問題及び人々を指すn?s, ‘?mma, khalq などの語についての議論も行われた。
 議論で主要な問題となったのは、民衆を如何に定義するかということであった。森山氏は、an-n?skhalq がウラマーを含むことが可能であるとし、民衆の定義は難しく、非常にあいまいであると指摘した。下山氏は聴衆を民衆と捉え、民衆と貴人の違いを読み書きの能力の有無によるとした。Shoshan氏に関しては、主としてsubversonの定義、位置付けについての問題が議論され、笑いはsubversionか、といった議論も展開された。厳粛な儀式では笑いは禁止されており、笑うことは十分にsubversion になりうるという。また、アーンマは通常農民を含まず、基本的に都市の住民を指すことなども指摘された。
(文責 茂木明石)

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