日時:2000年11月23日(木:勤労感謝の日)13:00-17:00
 場所:上智大学10号館322会議室(図書館向かい,6階にアジア文化研究所が入っています。)
 主催:イスラーム地域研究2Aおよび2C
 
 発表1:Hayati Nizar(インドネシア、イマム・ボンジョル・パダン国立イスラーム宗教大学)
"Gender in Islam: The Matrilineal System in Minankabau"
 発表2:Boaz Shoshan(イスラエル、ベン=グリオン大学)
"The State and 'Madness' in Medieval Islam
(タイトルについて、予告から変更がありました)

 ニザール氏の発表は、イスラームが広まった地域の大半の人々が父系の出自を採用しているのに対して、ミナンカバウの人々が母系を採用していることから、そうした出自がイスラーム法における相続規定などとどのように調和しているかという点で、たいへんに関心が持たれるものであった。残念ながら、同氏は社会学、人類学を専門とする研究者ではなく、また聴衆の多くが東南アジア以外の地域を専門とする研究者であったため、満足いくまでに共通の認識を形成し、充分に議論するところまではいかなかったが、研究者であると同時に、ミナンカバウの出身でもあるニザール氏にとって、イスラームとミナンカバウと女性という三つのアイデンティティ要因がどのように関わり合っているか、率直な説明を聞くことができた。質疑応答は多岐にわたり、ミナンカバウのみならず、東南アジアのムスリムにより大きな関心を向けていくことの重要性が通観された発表であった。
 一方、ショシャーン氏の発表は、マムルーク朝期における「マジュヌーン」概念を丹念に史料を追って明らかにする研究であり、ドルズの先行研究(M. W. Dols, Majnun: The Madness in Medieval Islamic Society, Oxford, 1992)の重要性と問題点を明らかにするところから出発して、イスラーム中世における「狂気」が病理的な現象としてよりも、きわめて法的・政治的な事象としてあったことを示してくれた。手堅い歴史学の研究ではあり、会場からの質問にそれに沿ったものが提起されたと同時に、同氏のモラル・エコノミーに関する理論的な立場とからめて、より大きな歴史観や社会理解の観点から、この発表の位置づけを問い直す質問もなされた。惜しむらくは、あくまで権力者側からの「マジュヌーン」の扱いに関する発表であったため、民衆がその概念に示した理解は、今回は議論の俎上に登らなかったが、むろんそうした研究の重要性についてはショシャーン氏のみならず、参加者の全員が強く認識するところとなった。