イスラーム地域研究第2班Bグループでは以下のように第1回研究会を開催しましたので、報告します。

イスラム地域研究 2B班 第1回研究会
「吉野川第十堰及びアラル海、カスピ海問題」に関する研究会報告

文責 中西久枝 (名古屋大学、1−A研究協力者)

日時:7月15日(土)―7月16日(日)
場所:徳島大学総合科学部2階会議室
報告内容:7月15日(土)
「アラル海問題の現状と課題」 報告者 石田紀郎氏(京都大学)
「吉野川第十堰問題」 報告者 武田真一郎 (愛知大学)
「カスピ海石油をめぐる最近の動向」 報告者 清水学(宇都宮大学)

7月16日(日) 吉野川第十堰の現地見学会

本研究会は、7月15日(土)から16日(日)にかけて、徳島大学総合科学部において開かれた。第一日目は、吉野川、アラル海、カスピ海問題について、それぞれ研究報告及び討論が行われ、第二日目は、吉野川第十堰の現場見学が催された。
まず、京都大学の石田紀郎氏(以下敬称略)から、アラル海問題について、農業用水としてのアラル海の水の乱利用によって生じたアラル海の縮小の過程と、それが引き起こしているアラル海およびその周辺地域の環境問題と経済、社会問題について、研究報告が行われた。アラル海は1960年代から徐々に縮小していったが、現在ではもはや半分以下の面積に縮小しているという。
石田氏によれば、この縮小からおこっている問題として、塩害によって周辺の耕地の農業生産性の低下、飲料水確保の量的、質的悪化、周辺住民の健康障害、アラル海の漁業資源をはじめとする動植物の減少といった問題がおこっている。
周辺国はこの問題に対してほとんど策をこうじておらず、アラル海縮小の問題は、環境の悪化がかなり深刻になる90年代まで、その実態が報道されることもなく、結果的に手遅れの状態に達してしまったという。この問題の根底には、遊牧民の定住化政策や農業推進政策など、社会主義体制下で推進された政策上の問題が大きいと、氏は主張した。
討論では、現地の住民の生活実態に関わる諸問題が中心に議論され、過去10年間現地で頻繁に実態調査を行っている石田氏から、問題の具体像を聞くよい機会となった。環境問題は、生態的な破壊が大きいことは言うまでもないが、それにともなう生活環境の悪化は、貧困化の社会問題をもひきおこしている実態が、報告、討論を通じて浮かびあがった。
宇都宮大学の清水学氏からは、カスピ海の石油・天然ガス問題について報告があり、カスピ海の法的地位をめぐる沿岸諸国の対立の問題をはじめ、石油・天然ガスの資源開発争奪戦が、周辺諸国間および欧米、日本の石油会社のあいだで展開されている問題について、報告された。カスピ海の資源開発問題は、ソ連邦崩壊後の中央アジアの再編成と当該地域に対して影響力を行使しようとする各国の国際戦略的側面が強いという。内陸湖であるカスピ海は、資源をどのようにして外に運搬するかという問題があり、それがパイプラインの引きかたをめぐる沿岸諸国、欧米、中国などの関心事となっている。清水氏は、地球温暖化による水位上昇や流入河川水やタンカー輸送による汚染により生じている水産資源の減少など、カスピ海の環境破壊の問題が、資源開発と同時進行している点ついても指摘した。
討論では、沿岸諸国と欧米、中国との政治的、外交的な関係、戦略的な文脈での沿岸諸国の地政学的な位置などの点について議論された。
愛知大学の武田真一郎氏からは、吉野川第十堰問題について報告があった。氏は、吉野川第十堰の歴史と83年に建設省から提案された改築建設計画に対する住民の見直し運動について報告し、地方行政と草の根的な住民運動の関係に言及した。徳島県や徳島市の行政に対して、住民の側から、第十堰問題の見直しをする組織がつくられ、今年1月の住民投票に至る経緯などが詳細に解説された。地方行政のもつ本質的問題である住民投票などを行う法的整備が自治体に存在しないため、住民投票条例の制定の問題をまず解決しなければならなかった点などが指摘され、住民投票実施までの住民の活動が明確になった。吉野川シンポジウム実行委員会の方針が最初から賛成・反対を前提にせず、客観的なデータで問題を深めるという方針が有効であったという指摘がなされた。今回の報告でも建設省側のパンフレットが参考資料として紹介された。報告者である武田氏は、行政法の専門家であるため、武田氏自身もこの住民運動に相談役として参加したという経緯もあり、その意味で、住民運動当事者からの視点の入った報告であった点が興味深い。
 2日目の7月16日には、住民運動で活発に活動した吉野川シンポジウム実行委員会、第十堰住民投票の会の姫野雅義氏による解説をまじえて、吉野川第十堰の現地見学を行ない、参加者は武田氏の報告の一端を目で確認することができた。また、現場では川原の石畳を保全するボランティアグループのひとびとにも会うことができ、意見交換も行うことができた点は有意義であった。