「長良川河口堰建設問題」に見られる環境と地域運動

(報告者:川元豊和)

 7月5日、燃えるような暑さの東京を出発した私は、新幹線の車窓を眺めながら、今回の研究会のメインテーマである長良川河口堰問題と「社会開発とイスラーム」がどのように結びつくのかを考えていた。
 7月6日早朝、JR岐阜駅に集合した5名の参加者(水島司、宮治一雄、松本光太郎 、井上貴子、川元豊和)は同地出身の井上貴子さんが手配したワゴン車に乗り込み長良川河口堰へと向かった。目的地が近くなるにつれ、川の水は淀み、その淀みの原因と住民運動の経過について車中で井上さんの説明を聞き、現地で我々を迎える予定の村瀬惣一氏(長良川河口堰差止訴訟原告)への質問に思いを巡らせた。(超)近代的な河口堰の建物(アクアプラザながら)の入口でお会いした村瀬氏の案内で近くの集会場へ行き、早速、氏の当問題に関する説明を受けた。 その内容は我々に多くの知見と新しい発想をもたらした。とりわけ、私は次の点に強く関心をもった。
 氏によれば、河口堰反対運動の当初は、漁業関係者を中心とした地域住民はもとより地方自治体、各種の政党や政治団体などが参加したが、それらの多くは補償金などの提示により徐々に運動から離れていったという。しかし、地域と直接利害関係をもたない様々な市民組織グループが全国から支援の名乗りを挙げ、現在の運動を支え、しかも、こうした諸グループの人々が運動の層を厚くし持続性をもつという。この指摘は日本における環境運動あるいは地域運動というものは地域空間を必ずしも基礎とするわけではなく、むしろ情報のネットワークや関心 の共通性が、いわば創造の地域性を共有させうることを示唆している。
 続いて、夜の研究会では水島司氏が「開発・在地社会・運動」というテーマで、近年の共同体土地所有をめぐる運動の特徴とその限界についてインドをとりあげながら論じた。同じく岐阜教育大学から現地参加された胡起望氏が「雲南における森林開発の経過とその問題点」について報告され、盛んな質疑応答が行われた。 最終日の7日には会場を岐阜未来会館に移し、松本光太郎氏が「中国における回族の現状と研究課題」について報告された。その後の総合討論では活発な議論が行われた。
 私には長良川河口堰問題と直接イスラームがどのように結びつくのか解らなかったが、私のフィールドであるバングラデシュの農業開発やNGOによる地域的諸活動などの展開において、今回の問題は地域開発に見られる共通性や相違を比較する新たな視点を示唆するところが大きいのではないかと思う。また、「社会開発とイスラーム」というテーマで様々な専門的な視点から多くの意見を拝聴できたことは私にとって大変有意義なものであった。
 今回の研究会において、村瀬氏には河口堰問題の全国大会を翌日に控え、多忙を極められていたにもかかわらずお越し頂いた。胡氏も我々のためにわざわざ貴重な時間を割いて下さった。また、井上さんは会場の手配や現地案内などの労をとられた。以上の方々に心から御礼申し上げます。