第2班合同研究会

 9月27日(土)に仙台の東北大学で第二班合同研究会が行われた。参加者は22名にも達し、活発な議論がかわされた。

(報告:私市正年)

[日時]9月27日(土)12:00-18:00

9月28日(日) 9:00-12:00
[場所]東北大学川内キャンパス(大学院国際文化研究科)の管理棟大会議室

[研究発表]9月27日(土)12:00-18:00
(1)松本光太郎(東京経済大学)「中国雲南の回族における経済開発をめぐる諸問題」
(2)Ulke Aribogan(University of Istanbul)「変貌する環境下におけるトルコの新しい役割」
(3)間寧(アジア経済研究所)「トルコの政治変動と市民社会」

 詳細は各発表者の報告に譲るが、次のような報告がなされた。
 松本氏は、中国雲南省の回族が少数民族として弾圧されてきた歴史を概観した後、鉱毒汚染や森林破壊による水不足、表土流出などの環境破壊の実態を、スライドを用いつつ報告した。
 Ulke Aribogan氏は、トルコ共和国はソ連崩壊の後に中央アジアに成立したトルコ系諸国家との政治的、経済的関係を深めつつあり、トルコの将来がこの地域との関係の在り方に大きく左右されるだろうと報告した。
 間氏は、8月に実施した海外調査の成果をもとに、トルコにおける市民社会組織の実態と政治的民主化への影響を報告した。

 この研究会の後、各分担者より研究状況の中間報告がなされ、さらにまた「研究プロジェクト」の今後の進め方について全員で議論が交わされた。
 研究会の後、懇親会が開催された。
 さらに28日(日)の午前中に、各グループの事務会議が開かれた。  


研究発表(1)

「中国雲南の回族における経済開発をめぐる諸問題」

2-a 松本光太郎(東京経済大学)

 9月27日の研究会においては、2-aグループからは松本光太郎(東京経済大学)が、「中国雲南の回族における経済開発をめぐる諸問題」について報告した。文化大革命末期にひどい弾圧を受けた雲南の回族も、現在ではめざましい経済発展をとげつつあるが、同時に多くの問題に直面している。第一に、中国でも有数の貧困省である雲南は、その財政収入のほとんどをタバコに依存しており、回族地域でも政府によりタバコ栽培が奨励されている。しかし、タバコ栽培はイスラムの教えに反するという問題があり、回族がタバコ栽培を拒否している地域もある。第二に、アヘンの密売と栽培が一部の回族地域で行われており、これに対する取り締まりが近年強化されてはいるが、未だに十分な効果をあげていない。第三に、雲南省では急速な環境破壊が進行しているが、回族地域もまた森林破壊、表土流出、鉱毒問題などの深刻な問題に直面している。来年2月に予定している現地調査では、こうした問題について、さらに詳しい調査を行う予定である。
 研究班2全体の研究会の翌日、2-aグループの会合が開かれた。長良川河口堰問題についての現地調査で得た経験を2-aグループの研究にどのように生かしていくのか、マグレブ研究会と2-aグループとの関係、今後の2-aグループとしての活動の方向などについて議論が交わされた。


研究発表(2)

「変貌する環境下におけるトルコの新しい役割」

2-b招聘 Dr. Deniz Ulke Aribogan Dekel
(イスタンブル大学経済学部国際関係学科講師)

 トルコはオスマン帝国時代以降、国際政治においてユニークな役割を果たしてきた。しかし、オスマン帝国の崩壊後、トルコの役割は超大国としての役割から半ば周辺国へと押し遣られた。このように、20世紀になると、社会・経済的諸問題に直面しながら、新たに受け身で若く傷つきやすい国家となった。この間、トルコはNATO、OECD、CSCE(全欧安保協力会議)のような、西欧よりの団体のメンバーとなった。トルコは文明世界の一員となることを目指して来たし、今も目指しているが、経済開発の後れや文化的異質性のゆえに、ヨーロッパ世界から遠ざけられてきた。このことから、トルコは、西欧的価値観を持ったオリエント国家となっている。
 ソ連邦の崩壊後、トルコ語を話し、トルコ共和国内に生活する同胞と人種的に強いつながりを持っていた中央部の国々と同様に、トルコもその重要性を再び吹き返したのである。トルコはソ連邦の解体後、その領土を500万平方キロメートル拡大したといわれているが、トルコ共和国と新興のチュルク系共和国との関係は思ったほど進展していない。この地域にはロシアの影響が未だに色濃く残っており、トルコとこれらの共和国との関係は経済および文化的領域に限定されている。トルコとこの地域との経済的関係は徐々に進展しており、トルコはこれら共和国の主要な貿易相手国となっている。1995年のトルコとアゼルバイジャンとの貿易量は1億8400万ドルとなり、カザフスタンとは2億3600万ドル、キルギスタンとは4400万ドル、トルクメニスタンとは1億6800万ドル、ウズベキスタンとは1億9900万ドルとなった。
 トルコは、将来の政治・経済予測をたてるにあたって新しい展望をいくつか持っている。しかし、トルコにとってヨーロッパは今なお主要な関心地域である。ヨーロッパ諸国は未だにトルコの主要な貿易相手であり、その貿易の52%がEU諸国とのものである。EUとのシェアが、EUとの関税同盟に統合されたあと、ますます増加して行ったとしても何ら驚くべきことではない。しかし、トルコにとっては、将来別の選択肢も存在する。それは黒海経済協力機構である。この黒海経済協力機構は、黒海沿岸の諸国のみならずさらにアルバニア、ギリシア、アゼルバイジャン、アルメニアなど非沿岸の諸国をも含めている。これは、ヨーロッパおよびユーラシア地域の低開発諸国からなる経済連合を目指すものであり、トルコがこれを率先している。この10年間、トルコは経済計画や政治計画の多様化を図ろうとしてきたし、さらに独立国であることと同盟国であることとの間のバランスを維持しようと努めてきた。


研究発表(3)

「トルコ政治変動と市民社会」

2-c 間 寧(アジア経済研究所)

 第三世界の政治変動分析の主要な関心事は、1970年代には民主主義体制の崩壊、1980年代には権威主義体制から民主主義体制への移行、そして1990年代には民主主義体制の定着と移り変わってきた(これは分析対象がまさに「変動」しているからである)。ところで民主主義の定着を大きく規定する要因の一つは国家に対する社会の自律性である。これは、市民社会の形成の問題として扱うことができる。
 トルコ政治を市民社会の観点から捉えることは、トルコ政治の分析手法上も重要な意義を持っている。1980年代までのトルコ内政の分析は、国家論、官僚制、政党政治、選挙といった国家および制度的側面に重点が置かれていた。そこでは、トルコの国家・社会関係を第一義的に規定しているのは強い国家であることが前提とされていた。これに対して、1990年代以降、社会を分析の対象にする動きが徐々に現れつつある。その理由の一つは、1990年代後半になると、市民社会の組織・運動がトルコ内政を語る上で無視できない存在になった。国家中心的、制度的な分析手法はトルコ政治一般の分析で重要性を失ってはいないが、これを補完する形で現れてきたのが社会中心的な分析手法である。発表では、この手法を用いてトルコの政治変動、中でも民主化を理解することを試みた。発表のアウトラインは以下の通り。

  1. なぜ今、市民社会か
    • 既存政党と国家への信頼低下(図1)
    • 法改正による市民的自由の拡大
    • メディアと世論形成(図2)
    • イスラム運動の台頭
    • 世俗主義組織の巻き返し
  2. 市民社会組織の実態
    • 社団
    • 財団
    • 労働組合
  3. 市民社会による政治参加の萌芽
    • 国家と犯罪組織の癒着を糾弾する、1分間消灯運動
    • イスラム派首班政権への辞任要求運動
    • 義務教育期間8年化への支持
  4. 政治社会の民主化から市民社会の民主化へ?