研究会報告( 柳橋 博之) イスラーム家族法の体系 1班c研究会 報告者と演題:柳橋博之「イスラーム家族法の体系」 開催日:19995月23日 場所:東京大学文学部アネックス コメンテーター:森正美 古典イスラーム家族法の体系と、その特色を概観することにより、現代のイスラ ーム世界における家族立法のなかで、何が変わり、何が変わっていないのか、変 わった部分はどのような理由で、どのような立法技術によって変わっているのか を探る第一歩としたい。 そのため、以下、古典法と現代立法の間に違いがあることが予想される項目を挙 げてみることにする。 I 婚姻 1 総論 2 婚姻の成立 A 求婚 a 女性を見ること b 待婚期間中の女性に対する求婚 c 求婚者以外の者による求婚 B 契約当事者と婚姻締結の態様 a 婚姻締結に関する能力 ・ 成年と表意能力:成年の定義は、古典法では肉体的成熟によるが、現代の立 法では年齢によるのではないか。 ・ 熟慮と行為能力 b 婚姻後見人または身分後見人 ・ 後見人の順位の意義 ・ 各学派における後見人の順位:現代におけるアサバ(父系男子血族)の意義 はどうなっているであろうか。 ・ スルターンの意義 ・ 遺言執行者による後見 c 夫の側の契約締結の態様 ・ 無能力者の婚姻:婚姻強制に関する現代立法の立場はどうなっているのか。 ・ 能力者の婚姻 d 妻の側の契約締結の態様:婚姻強制に関する現代立法の立場はどうなっている のか。 e 婚姻の締結に関する細則 ・ 後見人が複数いる場合の扱い ・ 双方の後見 ・ 自己契約 ・ 後見人の不在 ・ 婚姻締結の委任 C 契約に関わる条件 a 申込と承諾 b 期限・条件・約款 ・ 期限と条件 ・ 約款:妻の立場を少しでも改善する目的で設定される約款の効力に関する現 代立法の立場はどうなっているのか。 D 証人の立会い ・ 証人が備えるべき条件 ・ 法的性質 E 婚姻障害 a 永久的障害 ・ 血族間の婚姻障害 ・ 授乳による婚姻障害:習俗との関係で、乳兄弟や乳母などとの婚姻禁止の立 法例はどうなっているのか。 ・ 姻族間の婚姻障害 ・ 姻戚間の婚姻禁止の趣旨 ・ 呪詛の審判による婚姻解消 ・ 姦通の相手との婚姻の禁止 b 一時的障害 ・ 妻の数による婚姻障害 ・ 同時に姉妹と結婚することの禁止 ・ 宗教の違い:現代イスラーム国家や、ムム・マイノリティーを抱える国家 が、ムスリム・非ムスリムの通婚の問題をどのように捉えているのであろうか。 ・ 自由人と奴隷の間の婚姻 ・ 聖別状態 ・ 死の病 ・ 待婚期間中の女性の婚姻 ・ 三回の離婚宣言による離婚 F 確定要件 ・ 対等性の条件:古典法では、6つの項目について夫と妻の対等性を判断する立場から、1項目にのみ注目する立場があるが、現代立法はどのように解してい るのか。 ・ 対等性を欠く婚姻の効果 3 無効な婚姻:元々姦通罪の成立を阻却するための理論装置としての無効な婚 姻や類似性の法理は、現代はどのように扱われているのであろうか。 A 類似性の法理 a 類似性の分類 b 各類似性の定義 ・ 規範的類似性 ・ 誤信の類似性 ・ 契約の類似性 B 婚姻の無効の定義 C 無効な婚姻の効果 D 効力未定の婚姻 4 婚資:婚資に関する規定に並々ならぬ熱意を示した法学者であったが、現代 の立法や如何。 A 婚資の性質 B 婚資の設定・条件・相場額 a 婚資額の設定 ・ 婚資額の下限 ・ 不適正な婚資額の設定 ・ 婚資の設定を欠く婚姻の効果 b 金銭以外の婚資が満たすべき条件 ・ 婚資物自体の性質 ・ 婚資物の状態や法律関係 c 婚資額の相場 C 婚資債権の発生・確定と履行 a 婚資債権の確定 ・ 有効な婚姻 ・ 無効な婚姻 b 婚資債権の履行 ・ 支払負担者 ・ 支払の態様 ・ 婚資債務の不履行 5 扶養請求権その他の妻の権利:とくに妻の側からの扶養請求権実現の方法に 関して現代立法はどのように規定しているのだろうか。 A 扶養請求権 a 扶養の内容 b 扶養請求権の発生・継続・停止 c 扶養請求権の消滅 d 夫による扶養義務の不履行 B 住居の手当て C 妻の間の平等を求める権利 6 夫の権利 II 婚姻の解消 1 主体から見た婚姻解消の分類 2 態様から見た婚姻解消の分類:離婚と取消の二分法による古典法に対して現 代の理論はどうなっているのか。 A 各学派における各婚姻解消の態様 a 各学派における婚姻解消の分類 b 離婚と取消の法律効果の違い B 撤回可能な離婚と撤回不能な離婚 a 撤回可能な離婚 ・ 定義 ・ 撤回の態様 ・ 撤回不能な離婚 ・ 離婚と相続権 C 各学派による婚姻解消の分類表 3 待婚期間 A 定義 a 離婚の待婚期間 ・ 待婚期間開始の条件 ・ 各々の待婚期間の計算:待婚期間の計算は、古典法では無意味に複雑である が、現代法ではどうだろうか。 b 死亡の待婚期間 c 姦通を犯した女性の待婚期間 B 待婚期間中の夫婦間の権利義務関係 a 離婚の待婚期間―1 ・ 撤回可能な離婚 ・ 撤回不能な離婚 ・ 後発的無効または選択権行使 b 離婚の待婚期間―2 ・ 成立時において無効な婚姻 ・ マーリク派の離婚による解消 c 死亡の待婚期間 ・ 居住権 ・ 扶養請求権 ・ 服喪の義務 ・ 死の病制度の適用 C 待婚期間に服する女性の婚姻や性交 4 婚姻解消のさまざまな形式 A 一方的離婚 a 意義と根拠 b 有効要件 ・ 夫に関する条件 ・ 一方的離婚の宣言の内容:一方的離婚宣言に対する規制の問題は、現代では重要な課題であろう。 ・ スンナの離婚とビドアの離婚 B イーラー離婚 ・ イーラーの開始 ・ イーラー中断の条件と効果 ・ イーラー成就の効果 C 背中離婚 D 委任による一方的離婚権の行使 E 身請離婚 a 法源 b 身請離婚の性質 c 要件 ・ 当事者能力 ・ 客観的条件 d 両配偶者間の権利義務関係 ・ 身請金に関する約定の効力 ・夫婦間の権利義務関係 F 仲裁による離婚:離婚成立の態様としての重要性は現代において高まっている と予想される。 G 選択権の行使による婚姻の解消:やはり、離婚成立の態様としての重要性は現代において高まっていると予想される。 a 精神的・肉体的瑕疵 b 夫による婚資や扶養費の不払い c 夫の失踪に基づく推定死亡 d 妻たる女奴隷の解放 e 成年選択権・治癒選択権 f 夫による妻の虐待 g 夫の長期の不在 h 夫による性交拒否 H 呪詛の審判による婚姻の解消 I 後発的無効原因の発生 a 一方配偶者の背教 b 改宗と改宗拒否 J 一方配偶者の死 I III 親子・親族 1 親子関係 A 実子 a フィラーシュの概念 b 親子関係の推定 ・ 婚姻継続中に生まれた子 ・ 婚姻解消後に生まれた子 ・ 有効な婚姻外の親子関係の推定 c 親子関係の否認―呪詛の審判:古典法には呪詛の審判という宗教的な制度があ るのだが、現代立法はどのような制度を設けているのか。 ・ 法源 ・ 呪詛の審判の手続き ・ 呪詛の審判の有効要件 ・ 呪詛の審判の完了の効果 d 血縁関係または相続資格の承認 ・ 直接的承認 ・ 間接的承認 e 親子関係の立証 B 養子 C 棄児 a 養育者と扶養費の財源 b 棄児の身分 D 女奴隷の子の身分 a 親子関係が所有から生ずる場合 b 親子関係が婚姻から生ずる場合 E 庇護権 a 庇護権の発生とその内容 b 庇護権の継承順位を定める原則 c 庇護権継承の具体的順位 d 被護者たる身分の継承 2 授乳と養育 A 授乳 B 養育 a 養育権の性質―誰の権利か b 養育権者の範囲と就任の順位 c 養育期間の終了と爾後の子の住所 3 扶養 A 総則 a 扶養の内容と法的性質 b 貧窮・資力・収入を得る能力 c 扶養の権利義務が生ずる血族の範囲:古典法では、この範囲を広く解してムス リム共同体の役割を小さくする立場と、範囲を狭く解して共同体の役割を大きく する立場があるが、現代の国家はどちらの立場を採っているのか。 B ハナフィー派 a 扶養の権利義務の発生条件 ・ 被扶養者たる条件 ・ 扶養義務者たる条件 ・ 扶養者と義務者に関わる条件 b 扶養義務者の順位と負担の割合 ・ 子がいる場合 ・ 子はいないが父がいる場合 ・ 二親等以下の卑属のみがいる場合 ・ 父も卑属もいない場合 ・ 本来の扶養義務者が不適格の場合 ・ 父の妻に対する子の扶養義務 c 扶養義務の不履行 C マーリク派 a 扶養義務発生の条件 ・ 父が子に対して負う扶養義務 ・ 子が親に対して負う扶養義務 ・ 子が父の妻に対して負う扶養義務 b 扶養義務の不履行 D シャーフィイー派 a 扶養義務発生の条件 b 扶養義務者の範囲と順位 c 扶養義務の不履行 E ハンバル派 a 扶養義務発生の条件 b 扶養義務者の範囲と負担の割合 ・ 扶養義務者の範囲 ・ 扶養義務の負担の割合 F 婚姻の斡旋 G 奴隷と動物の扶養 4 後見 A 禁治産制度の概容 B 財産後見:子の権利保障という観点から、財産後見は、現代の立法上、どのよ うな扱いを受けているであろうか。 a 後見人の資格と範囲 b 後見の内容 ・ 表意無能力者の財産後見 ・ 行為無能力者の財産後見 ・ 夫の妻に対する後見 c 後見の解除=行為能力の獲得 ・ 男子の後見解除 ・ 女子の後見解除 |