1−c平成11年度第3回研究会

イスラーム家族法
研究会報告( 柳橋 博之)

日時:2000年2月19日(土)13:00〜
場所:東京大学文学部アネックス大会議室

1.多和田裕司「マレーシアにおけるイスラーム法―家族法を中心にして」
(1) マレーシアにおけるイスラームの制度的位置付け:憲法による連邦と州に対するイスラーム法関連の立法権の委任およびそれに対する制限
(2) 植民地期以前から、植民地期、独立を経て現代に至るまでの家族法を中心とする立法の通観
(3) 家族法の条文の具体的な分析 

  スンナ派、とりわけシャーフィイー派法学の長い伝統を有していること、スルタンによって統治される自立性の高い13の州から構成される連邦制を採っていること、イギリスによる植民地支配の経験があること、国内に40%の非ムスリム人口を抱えていることなど、様々な政治的な環境の中で、マレーシアにおけるイスラーム家族法立法がどのように行われ、また公定的な解釈がどのように行われているのかについて、図も用いながらの解説が行われた。

2.森正美「フィリピンにおけるイスラーム婚姻法―フィリピン・ムスリム身分法典を中心に」
(1) ムスリム人口が国民の7%を占めるに過ぎないフィリピンにおけるイスラーム法の制度的な位置付け
(2) 「フィリピン・ムスリム身分法典」(1977)編纂の経緯と、当時の社会状況と、法典編纂の意味について
(3) 「フィリピン・ムスリム身分法典」の具体的内容
(4) 同身分法典によって設置された、シャリーア裁判制度の社会的認知度についての調査結果に基づく、現代フィリピン法制度におけるイスラーム法制度の現状分析

  慣習法、イスラーム法、国家法が並存しているフィリピン・ムスリム社会において、ムスリム自身がこれらの法、特に慣習法とイスラーム法をどのように認識し、またこれらの法が紛争の解決においてどのように機能しているのか、また法典編纂、シャリーア裁判所の設置、シャリーア司法試験などの制度の整備によるイスラーム法の国家制度への組み込みと、それが現実にどれだけ実効的に運用されてるのかなどについて、図も用いながらの解説が行われた。

  今回の研究会は、東南アジアをフィールドとする人類学者による報告であった。月並みではあるが、ムスリムがイスラーム法として認識している規範と、一方に法学書に載っているイスラーム法、他方に慣習法や国家の制定法などがどのような関係に立っているのか、それからイスラーム法の伝統や現在の政治的状況、国家の体制などの影響といったものがいかに複雑に関係しあっているのかについて考えさせられた。参加者の多くは東南アジアを専門としていなかったが、活発な質疑応答がなされ、プロジェクト期間残り2年間で面白い成果が出てくるのではないかとの手応えを感じた。

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