海外調査報告

八尾師 誠
(1-Aグループ)




 出張先   イギリス:ロンドン、イラン:テヘラン

 日程    1997年9月10日  成田発(BA−008)
       1997年9月10日  ロンドン着
       1997年9月14日  ロンドン発
       1997年9月15日  テヘラン着
       1997年9月28日  テヘラン発(IR−800)
       1997年9月29日  成田着

 目的    『ホメイニー正伝』の翻訳作業に伴う、同書の英訳者および原著者との        打ち合せ

 成果

 ホメイニーの死去から既に8年余りが過ぎようとしているが、単なるプロパガンダではない学問的なホメイニー研究もイランで漸く本格化しようとしている。ところで、これまでイラン本国でも既に幾冊かのホメイニー伝が著わされている。そうした中で、堅実な資料分析を踏まえた研究としては、1990年にイスラーム文化指導省から第一版が出版されたモハンマド・ハサン・ラジャビー(Mohammad Hasan RajabGenevai)著『エマーム・ホメイニ ーの政治的伝記(ZendegGenevaanGenevaame-yesiyGenevaasGenevai-ye emGenevaam KhomeynGenevai)』(以下『ホメイニー正伝』と称す)が注目される。3年ほど前から私は本書の本格的翻訳作業(底本は1994年刊の第三版)を開始し、下訳作成の作業もほぼ完成に近付いている。この翻訳作業の過程でこれまでに私は原著者に二度会っているが、その折に原著者から伺ったところでは、本書のアラビア語訳とウルドゥ語訳は既に出版されており(残念ながら私は未見)、英語訳もSOASのヴァネッサ・マーチン(Vanessa Martin)女史(Islam and Modernism:The Iranian Revolution of 1906〈1989〉の著者でイラン近現代史研究者)によって進められているとのことであった。

 そこで、今回の私の海外出張の基本的目的は以下の二点に設定された。まず、ロンドンではマーチン女史および、現在ホメイニー伝を執筆中のバーケル・モイーン(BGenevaaqer Mo'Genevain)氏にあって、イギリスにお けるホメイニー研究の現状に関する情報を入手し、将来的な共同研究の打診を行なうこと。テヘランでは原著者であるラジャビー氏にあって、私自身の翻訳作業の中で明らかとなった不分明な部分を直接問いただすことに加えて、イラン本国におけるホメイニー研究の状況を把握すること。ロンドンでは残念ながらマーチン女史には諸般の事情で結局会うことが出来なかったものの、現在BBC放送のペルシア語・パシュトゥ語放送部門の責任者であるバーケル・モイーン氏には予定通り会うことができ、氏が個人的に収集されたホメイニー情報の一部も披露して頂くなど、筆者の翻訳作業にもおおいに資するところがあった(なお氏の著書Geneva Khomeini:Islamic politics and the sign of god:Geneva は1996年刊行として既に書店の新刊案内に紹介されているが、実際には 未だ出版に至ってはいない)。

 またテヘランではイスラーム共和国国民図書館研究部次長の立場にあるラジャビー氏に再会する機会を得たが、筆者の質問箇所に快く答えてくれたのみならず、日本語版への序文も新に用意して頂いた。更に、氏の紹介により「エマーム・ホメイニー関係資料編集・出版研究所」をも訪れる幸運に恵まれた。同研究所は、テヘラン北部のニヤーバラーン地区にあったかつてのホメイニー師のテヘランでの居所に設立された研究所で、現在はハビービー博士、ベヘシュティー博士を中心に、ホメイニー関係文書の大々的収集作業を進めている。博士らの説明によれば、ホメイニー師自身の著作は言うに及ばず、ホメイニー師に関して書かれたものはペルシア語であれ、外国語であれすべて収集する予定とのことである。既にその成果は、ホメイニー師の著作を中心に同研究所より続々と刊行されている。また、数年後以内にはホメイニー伝の決定版の出版も計画されているという。

 以上、僅か20日間の日程ではあったが、所期の目的は概ね達成され、『ホメイニー正伝』翻訳作業の完成・出版に向けての準備を順調に進めることが出来たのみならず、これを機に、ホメイニー師研究を皮切りにシーア派12イマーム派政治思想の分析に本格的に着手する確かな手応えを得たと思う。




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