1−c研究会


古典法と現代法の間

発表者:柳橋博之

2001/06/23
会場:南山大学



1. ムスリム間の紛争に対する準拠法と管轄裁判所−古典法とエジプト法


(1) 古典法
刑事事件をしばらく別とすれば,古典法によれば,ムスリム同士,ムスリムと非ムスリムの間,異なる宗教または宗派に属するズィンミー(ムスリム共同体との間に保護契約を結んだ宗教共同体の成員)間の紛争の管轄裁判所はムスリム法廷であり,リバーの禁止などのイスラームに固有の規定を除いては,イスラーム法が適用される。同じ宗教・同じ宗派に属するズィンミーはその所属する共同体の法廷の管轄に属し,その固有の法の適用を受ける。

(2) エジプト法
伝統的にはムスリム裁判所とズィンミーの裁判所があった。1315年ズ・ルヒッジャ25日(1897年5月27日)付け「シャリーア裁判所とその施行規則」その他の立法によってシャリーア裁判所とミッラ裁判所が創設された。しかしこれらは,1955年第462号(同年2月10日発布)により廃止され,普通法の民事裁判所が身分訴訟も管轄することになった。

第1条 シャリーア裁判所とミッラ裁判所は1956年1月1日をもって廃止され,これらの裁判所が担当していた訴訟は,1955年12月31日を過ぎた後は,国民裁判所で審理が継続される。

第6条 身分関係とワクフに関わり,元々シャリーア裁判所の管轄に属していた事案は,同裁判所の組織についての法令の第280条の規定に従って判決が下される。
2.非ムスリムのエジプト人であって,この法令が発布された時点であるミッラの裁判管轄に服する宗教共同体に属していた者の身分関係に関しては,その者のシャリーアに従って判決が下される。

第7条 前条第2項の適用において,ある裁判所に係属している当事者の一人がその属する宗教共同体を離脱して別の宗教共同体に移ったとしても,準拠法に変更はない。ただし,その者がイスラームに移行した場合には,前条第1項の規定が適用される。

非ムスリムに対して適用される身分法
(1) 1938年5月9日に発布されたコプト教会法。1955年に増補された。しかし,1977年6月6日破棄院判決は,55年法に効力を与えるには,宗務院の人員が不足しているとして,38年法に対してのみ効力を認めた。

コプト教会に属する当事者間の身分訴訟は,啓示の書だけではなく,1938年5月9日に発布されたコプト教会法も含めて,コプト教会のミッラ裁判所が依拠してきた法に依拠しなければならない。

(2) 1949年2月22日にアンタキアのペテロ12世により発布された東方教会教徒のための身分法。
(3) 1976年10月29日には,アルメニア教会信徒のための身分法が発布された。
(4) 1902年には,英国国教会信徒のための身分法が発布された。これは1850年のフマユーン勅書においてオスマン帝国在住のイギリス人を一つの宗派とみなす旨が定められたことに対応して作成された。

第6条によれば,宗教または宗派を異にする者の間の身分訴訟に対してはイスラーム法が適用されることになる。1976年2月11日破棄院判決は述べる。

1955年462号法第6条は,宗派または宗教を異にする非ムスリムのエジプト人に関わる身分訴訟は,ハナフィー派の多数説に従って判決が下されるということである。

1972年5月17日破棄院判決は次のように述べる。

1955年第462号法が発布される前は,宗教または宗派を異にする夫婦間の訴訟に対して適用される法はイスラームのシャリーアであった。立法者は,この法を発布するに当たって,この点に関する従来の規定を変更する意思を示さなかった。このことは同第6条から読み取れるところである。さて,第1審判決によれば,控訴人と被控訴人は,宗教は同じであるが,属している宗派は異なる。またいずれの宗派も離婚という制度を認めていることも確認されている。しかるに離婚に関しては準拠法はイスラームのシャリーアであるが,イスラームのシャリーアは夫による単独の離婚を認めているのである。

1976年11月17日破棄院判決は述べる。

被上告人(夫)は最初に訴えが起こされる前にイギリス国教会に入信し,これによって夫婦は異なる宗派に属することになった。この場合,イスラームのシャリーアが適用されることになる。上告人たる妻が被上告人と同じ宗派に入信した後に被上告人が一方的離婚の宣言を行ったことによってもこの規定には変更はない。というのは,最初に訴えが起こされた時点で夫婦間の宗派が異なっており,この場合には,[イスラームのシャリーアが適用される結果として]夫は妻を一方的に離婚することができるからである。

しかし,1986年1月22日破棄院は,当事者の宗教の原則に反するイスラーム法の規定の適用は排除されるという判決を下した。では,改宗の事実の有無はどのように判定されるか。次の例は,法の適用を潜脱しようとして改宗した者に関する,1972年4月12日控訴院判決の一部である。

この裁判所において確定されたところによれば,宗教や宗派の変更は信仰の自由に関わる問題である。ただし,管轄裁判所という行政上の問題としては,改宗は,改宗者の求めや希望のみによって完成するものではなく,改宗先の宗教に入り,その儀礼を実践し,外見も変え,改宗先の宗派や宗教共同体による受け入れの意向がその長を通して表明される必要がある。

しかし1977年3月9日破棄院判決は次のように述べている。

信仰に関わる事項は,当人の申し立てに基づくのであって,裁判官がその内面に立ち入ることはできない。イスラームへの改宗が行われたことは,イスラーム法に従って2人の証人の証言によって確認される。

親子の間の関係に対して適用される法を決定するために当事者の宗教が問題になる場合がある。1974年1月9日破棄院判決。

シャリーアの規定によれば,子は両親の宗教のうち,より良いものに従う。よって成年に達しない間はムスリムならば,成年に達しても,改めてムスリムであることを宣言しなくてもムスリムである。


2. 古典法または現代立法の補充性について−シリア家族法を例として

1917年に「オスマン家族権利法」が成立し,当時のオスマン帝国領に適用された。独立後のシリアもこれを継承していたが,1949年に家族法起草委員会が設置され,1953年9月17日大統領令により,シリア家族法が成立した。その際に基礎となったのは,@オスマン家族権利法,Aエジプトの家族立法,B Muhammad Qadri Pashaのハナフィー派に依拠した「家族法」,C同委員会が適当とみなすハナフィー派以外の規定と立法例,Dダマスクスの裁判官による家族法草案,であった。
シリア家族法は,古典法に依拠しつつも現代的な要請によく応える内容になっており,以後これに範を採る立法例がイスラーム圏で多く現れた。その古典法との関係を示す例を2つ挙げることにしたい。

(1) 未成年者の婚姻とムスリム・非ムスリム間の婚姻の効力
シリア家族法は,婚姻適齢に下限を設けず,かつ婚姻が「契約当事者」によって締結されるとして,婚姻強制を残存させている。

第1条 婚姻とは,男性と,彼が合法に婚姻することのできる女性との間の契約である。
第5条 婚姻は,契約当事者の一方による申込と,他方による承諾によって成立する。
第15条第1項 婚姻適性)を獲得するためには,理性を備え,成年に達することが必要である。
第16条 婚姻適齢は,男子については18歳,女子については17歳である。
第18条第1項 満15歳に達した後,成年に近付いた男性または,満13歳に達した後,成年に近付いた女性が成年に達したことを主張し,婚姻の許可を求めた場合,裁判官は,その言葉を真実とみなし,肉体的な成熟を認めたとき,婚姻を許可しなければならない。
第2項 後見人が父または祖父の場合,その同意を要する。
第47条 婚姻契約においてその基本的要件とその他の締結の条件が満たされている場合,婚姻は有効である。
第48条第1項 申込と承諾により婚姻契約の基本要件が満たされても,その条件が満たされなければ,婚姻は無効である。
第2項 ムスリム女性と非ムスリム男性の間の婚姻は不成立である。
第50条 不成立の婚姻は,床入りが完了しても,有効な婚姻から生ずべき効力を一切有しない。
第51条第1項 無効な婚姻は,床入りが完了しない限りは,不成立の婚姻と同様に扱われる。
第2項 無効な婚姻中で床入りが完了した場合,以下の効力が発生する。

「婚姻能力を欠く女性の婚姻は,その父がこれを締結した場合,有効である」(1981年12月9日破毀院シャリーア部判決)
「成年に達した女性は,処女であるか否かを問わず,婚姻強制に服さない」(1966年3月14日破毀院シャリーア部判決)→ 逆に言えば,未成年女性は婚姻強制に服するかのように読める。
「家族法は,15歳に達しない男子と13歳に達しない女子は婚姻適性を有しないとみなしている。このような無効な婚姻においては,二人きりの状態は床入りに代わるものとはみなされず,よって女性(妻)は,婚資の支払を請求することはできない」(1973年2月8日破毀院シャリーア部判決)
「ムスリム女性と非ムスリム男性の間の婚姻は不成立であって,第48条と第50条の規定により,有効な婚姻から生ずべき効力は一切生じない。というのは,不成立の婚姻は,イスラームのシャリーアにも,公序良俗にも反するからである。ただしこのことは,civil registerに母の名が記載されることを妨げるものではない」(1970年10月22日破毀院シャリーア部判決)注:不成立の婚姻中の性交は姦通に当たる。姦通から生まれた子は,産婆等による出産の現場の目撃証言があれば母の子とみなされるが,目撃証言がない場合には,姦通者の子と名指しされる子の利益のため,母の子とはみなさないという説がハナフィー派には見られる。

これらの判決に従えば,夫婦が婚姻適齢に達していることは,「婚姻契約の基本要件」には当たらない。他方,第132条では無効な婚姻,第133条では婚姻外で「曖昧性shubha」を含む性交から生まれた子と男性の間には父子関係が確定的に成立するとされており,「無効な婚姻」とは,その中で行われた性交が曖昧性を含む婚姻と同義と考えられる。曖昧性の定義はシリア家族法中には現れないので,古典法の理論がそのまま適用されると考えられ,すると「無効な婚姻」もハナフィー派で無効とされる婚姻を指すと解すべきである。ということはシリア家族法が未成年者の婚姻を無効とするのは,これもシャリーアの一つの解釈として位置付けられるという意味に解される。

(2) 間接的承認について
シリア家族法第136条は次のように規定している。

第136条 血縁関係の承認は,承認者が被承認者を自分の子または父または母として承認する場合を除いては,承認者自身に対してのみ効力を有する。ただし,承認者[および被承認者]以外の者がその承認を真実とみなしたときは,その者に対しても効力を有する。

古典法においては,承認者が被承認者を自分の子または父または母として承認することは直接的承認,それ以外の血縁関係の承認は間接的承認と呼ばれる。シリア家族法第135条は直接的承認によって血縁関係が確定する旨を定めている。本第136条は,それとの対比で間接的承認は血縁関係の確定の効果を有しないとしつつも,別の「効力を有する」と定めている。この効力の内容はここでは述べられていない。ただ古典法では,被承認者が承認に同意を与えることによって両者間に扶養の権利義務が発生したり,被承認者は承認者を,ないしは承認者とともに第三者を相続する資格を得たりするなどの効果が発生するとされている。しかしシリア法が間接的承認の効果としてそれらの法律効果について明示的に述べているのは,被承認者の相続資格に言及した第262条第2項第2号および第298条に限られる。
まず,第262条では,第1項において,葬儀費用の支出に始まり法定相続にいたるまでの遺産の処分・分割の手順が定められている。そして第2項第1号において,相続人がいない場合には「被相続人が自己以外の者との関係により自己の血族と認めた者」,すなわち間接的承認を受けた者が承認者を相続する資格を有すると定められている。
つぎに第298条は次のように定めている。

第298条 血縁関係が不明な者に対して間接的承認が行われた場合、被承認者は,以下の条件を備えることにより,[承認者の]遺産に対して権利を有する。
1 被承認者の血縁関係が立証されないこと
2 承認者が承認を撤回しないこと
3 被承認者に相続欠格事由が存在しないこと
4 被承認者が承認者の死亡時または死亡宣告時に生存していること

これにたいしてチュニジア家族法第73条は間接的承認について次のように定めている。

第73条 人が,父方のおじ,祖父,または息子の息子のように,自己との直接的でない血縁関係を承認した場合,この承認は,承認者と被承認者の双方がこれを認め,前者に被承認者以外に相続人が存在しないときは,承認者において有効とする。この要件が満たされないときは,被承認者は承認者に対していかなる相続権も有しない(後略)

一見すると,一方にシリア家族法第262条と第298条,他方にチュニジア家族法第73条はよく似ている。しかしそうだとすれば,なぜシリア法は一つの規定を,第262条と第298条という離れた場所に分けて置いたのかという疑問が生じてくる。それを考える前に,具体的な例を挙げて両者の違いを説明する。
今,AとBは兄弟で,Aはさらに第三者Cを自分の兄弟として間接的に承認した後に死亡し,それ以外に血族を残さなかったとする。この時点でBがCをAの(ということは同時に自分の)兄弟として承認しなければ,Cが相続権を有しないことは,シリア法でもチュニジア法でも変わらない。
しかしBがCを承認した場合はどうか。チュニジア家族法第73条によれば,Cはけっして相続権を有しない。これにたいして,シリア家族法第136条の但し書きによれば,CはBとともにAを相続する。つまり同第262条第2項第1号は,承認者に相続人がいない場合には被承認者が相続権を有することを定めているだけで,相続人がいる場合については定めていないのである。
古典法の中で,シリア家族法が主として依拠しているハナフィー派と,チュニジア家族法が主として依拠しているマーリク派の規定は,シリア法の規定と同じである(ただしより細かい規定を定めている)。チュニジアの立法者とは異なりシリアの立法者は,わかりにくいやり方ではあるが,承認者に相続人がいる場合といない場合を分けて被承認者の相続権を論ずることにより,古典法を忠実に法典化したわけである。
すでに述べたように,シリア家族法第136法にいう「承認者自身に対してのみ効力を有する」というときの「効力を有する」の具体的な内容は古典法を参照すれば明らかになる。またみぎに見たようなシリア家族法第262条第2項第1号の解釈は,同条だけを見ても,また第298条と併せてみても容易に導くことはできないであろう。さらに第136条までつきあわせて見れば導くことはできるが,それよりは古典法を知っていれば比較的容易に理解されるところである。さらにまた,承認者に複数の相続人がいて,その一部だけがこれを真実と認めた場合にそれら相続人と被承認者の各々の相続分の算定などは古典法に拠らなければ分からない。このように現代シリア家族法は,古典法を参照して初めて体系として理解することができる,ないしは理解が容易になる。他の立法例でも同様の現象が見られるであろう。

参考文献(日本語のみ)
眞田芳憲・松村明編著『イスラーム身分関係法』中央大学出版部,2000年.
塙陽子『イスラム家族法』全2巻,信山社,2000年.
堀井聡江(書評)眞田芳憲・松村明編著『イスラーム身分関係法』『イスラム世界』第56号(2001年)85-97.


3.国際私法の原理−シャイバーニー(749-805)の理論
イスラームのシャリーアによって支配される「イスラームの家」は,その支配の及ばない「戦争の家」とつねに敵対関係にあるというのが,イスラームの基本的な教義である。しかし民事上の紛争の裁判管轄や準拠法に関するシャイバーニーの理論は,「イスラームの家」と「戦争の家」の関係の別の側面を明確に示している。「戦争の家」において締結された契約や,そこで行われた不法行為を原因として紛争が発生した場合,その紛争に対する裁判管轄と準拠法に関するその理論はつぎのように要約することができる。なお以下では,訴えが起こされた時点で両当事者が「イスラームの家」にいて,よってカーディー裁判所に訴えを起こすことが物理的に可能になっていることが前提になっている。
(1) 紛争の原因となった契約や不法行為の当事者の人的裁判管轄が訴えの時点でともにカーディー裁判所に属するのでない限り,その紛争に対してカーディー裁判所は管轄権を有しない。この規則により,「戦争の家」でハルビーとムスリム(在地ムスリムまたはムスリム・ムスタァミン)の間で結ばれた契約やその間で起こった不法行為は,ハルビーがイスラームに改宗しない限りは,カーディー裁判所において審理の対象とはならない。ハルビーとは,「戦争の家」在住の非ムスリムを指す。ムスタァミンとは,ムスリム共同体の長としてのイマーム(カリフと同義)またはムスリム個人からアマーンと呼ばれる安全保障を得て,1年間を上限として,「イスラームの家」での滞在を許可されたハルビーを指す。
(2) 訴えが起こされた時点で紛争当事者がともにムスリムであれば,カーディー裁判所の管轄権が及ぶ。その際の準拠法は,紛争の原因となった契約が結ばれたり,不法行為が行われたりした時点の準拠法である。ここからつぎのような結論が導かれる。
(a) その時点で両当事者がムスリム・ムスタァミンだった場合には,イスラーム法が適用される。
(b) その時点で一方または両方の当事者がハルビーだった場合には,当事者間の明示的な合意だけが考慮され,イスラーム法が遡って適用されることはない。ただし,訴えの時点で当事者がムスリムとなっているためにイスラーム法の適用を受けることの効果として当事者間で結ばれた契約が法的に履行不能となる場合があり,そのために当該契約が解除される可能性はある。「戦争の家」の法は規範的には無価値とみなされるため,カーディーによる判決の基礎とはなりえない。紛争の原因が不法行為であるときにも,同じ理由から,イスラーム法と同様に「戦争の家」の法は斟酌されず,現状が追認される。
(c) 在地ムスリムに対する準拠法の決定は難問であるが,シャイバーニーは,イスラーム法を部分的に適用している。
シャイバーニーの学説は,2つの原則の上に成り立っていると考えることができる。その一つは,「イスラームの家」と「戦争の家」の裁判管轄に関する相互性あるいは対象性である。これはイスラーム世界と非イスラーム世界の間に商業その他の目的で交流があり,かつ両者の間に対等な関係が成立している場合を考えれば,きわめて現実的な考え方だということができよう。非イスラーム世界から異教徒の商人がやってきてイスラーム世界において商業活動を営む場合を考えてみよう。イスラーム世界の為政者は,その異教徒の商人に対して,少なくともイスラーム世界で締結された契約に関しては,イスラーム法の遵守を要求しようとするであろうし,そのためにはカーディー裁判所の管轄を主張するであろう。互恵性の原則に立てば,この主張に実効性を与えるためには,非イスラーム世界のある地域で締結された契約に対してはその地域の裁判所の管轄権を認めざるを得ないであろう。これが「イスラームの家」と「戦争の家」の裁判管轄に関する相互性あるいは対象性ということである。
もう一つの原則は,「戦争の家」の法は規範的には無価値であるという判断である。この原則は,とくにそれまで「戦争の家」に属していた地域が「イスラームの家」に組み込まれた場合に実践的な意義を有する。そのような地域にカーディーが赴任して,「イスラームの家」に組み込まれる以前に発生した事案に関する訴えを受けたとする。その事案に対して,イスラーム法を排除してその地域の従前の法を適用することは理論的にも容認されえないし,またカーディーの負担を考えても非現実的である。といって,過去に遡ってたとえば現在の所有関係や身分関係(婚姻や親子関係)に対してイスラーム法を適用することは無用の混乱を生ずることになり非現実的である。ある物に対する事実上の占有や身分関係はできる限り維持することが,とくに平和裏に「イスラームの家」への組み込みが実現した場合には,唯一の現実的な政策と考えられるのである。


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