中央アジア調査報告(ウズベキスタン2)


 期間:2001年7月12日〜28日
 調査地:中国、カザフスタン共和国、キルギズスタン共和国、ウズベキスタン共和国

 今回の調査の前半(7月12〜22日)については、防衛研究所の業務として、高木誠一郎・同研究所第2研究部長とともに、北京、アルマトゥ、ビシュケク、タシュケントにて、先般(2001年6月)締結された「上海協力機構」(SOC)設立宣言や中露友好善隣協力条約をふまえて、今後の中央アジアの安全保障や中露関係をめぐる評価について、各国の関係省庁ならびに研究機関において聞き取り調査を行うとともに、関連資料の収集にあたった。

 SOC設立宣言に関する評価としては、訪問した先々で、SOCの制度化を期待するとともに、依然として問題点が残っていることを関係者が認識していることが窺われた。例えば、同宣言文には、加盟国の常設代表からなる協議機関として「SOC地域的反テロリズム・ストラクチュア」をビシュケクに設立することが明記されているが、関係者はこれが実質的に機能することを期待している反面、同じくビシュケクに設置されている独立国家共同体(CIS)反テロリズム・センターとの連携については、まったく白紙の状態である模様であった。

 SOCが軍事ブロック化するか、経済協力を軸とする国際協力機構となるかを判断する主な変数として、@加盟主要国としての中露のプレゼンスと志向、A米国のプレゼンス、B加盟国の拡大と制度の深化、Cユーラシア地域における他の国際機構との連携、といったものが考えられよう。

 これにしたがって今回行ったインタビューの内容を整理すると、@については、ロシアよりも中国のプレゼンスの増減を期待もしくは危惧する指摘が目立った。すなわち、交通網整備による流通の拡大や、天然ガス・石油パイプラインが中央アジア諸国を経由して中国に伸張するなどのプランが挙がっているが、中国の西部大開発に中央アジアとの連携が必要であるとの意見が散見された。他方、中国は当該地域において強大な軍事力を持つとともに、経済交流の活性化とともに中国西部の人口が大量に中央アジア諸国へ流出することについて、中央アジア諸国(特にキルギズスタン)関係者は脅威と感じている様子であった。

 Aの米国のプレゼンスの可能性ついても、さまざまな意見を聴取できた。SOCサミット前後に、米国がオブザーバーなど何かしらの形でこれに参画するとの報道があったが、これについては概して、中国では否定的見解が、ウズベキスタンでは歓迎の意向を示す意見が目立った。Bの加盟国の拡大や機構の制度化をめぐっては、設立宣言では将来の新規加盟国について具体的国名は挙げられていないが、加盟国間で意見の食い違いが見られた模様である。インタビューでは、加盟国の増大は極力抑え、コンパクトな地域機構としていくことに期待しているとの意見が中央アジア諸国において多く窺えた。機構の深化については、2002年のサンクト・ペテルブルグ首脳会合によって一応の決着がつくものと予想されるが、インタビューの時点では、上海での首脳会合の直後ということもあり、関係者のあいだでも具体的な構想があるものとは窺えなかった。

 C他の国際機構との連携についても、依然として不明確な点が多い。CIS集団安全保障条約、ユーラシア経済同盟、GUUAM、そしてカザフスタンが主導するCICA(アジア相互信頼醸成措置会議)など、当該地域には機能不全もしくは未成熟な国際機構が目立つ。インタビューでは、SOCには中露というユーラシアの二大国が加盟しており、これらの既存の機構とは異なる、より実質的な機能を発揮するという意見が、期待を込めてなされるケースが多かった。

 出張の後半(7月23日〜28日)は、小松久男・東京大学教授とともに、ウズベキスタン領内フェルガナ地方において、研究班1「フェルガナ・プロジェクト」の一環として現地調査を行った。詳細は小松教授の報告に譲りたいが、旧ソ連解体前後から進展してきた現地におけるイスラーム復興を目の当たりにすることができた。

 今回訪問したいずれの都市においても、モスク、メドレセなどの宗教施設が着実に復興し、かつ根付いていた。例えば、フェルガナ北部、キルギズスタンとの国境に近い都市カーサーン・サイでは、ソ連末期から住民からの浄財によって、市外の中心部に建設されたモスクらびに、建設に携われた方々を訪ねることができた(写真参照)。このような施設は建設中のものを含め、数多く見ることができた。このような宗教をめぐる事情が、地域情勢にどのような影響を与えるのか、また政党を含む政治運動において宗教が果たす役割やその余地について、今回の出張の成果を踏まえて、今後取りまとめてみたいと考えている。

                                                湯浅 剛





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