主な研究テーマと活動

 現代イスラーム世界の動態の中でもひときわ目立つのは、イスラーム復興の展開である。それはたんなる思想潮流にとどまらず、政治・社会運動として現れているところに特徴があり、さらにイスラーム諸国の中に限らず、世界に広がるイスラーム地域の各地において政治・社会的な問題を提起している。それはまたイスラーム思想の豊かな伝統を背景にするとともに、現代のイスラーム地域にみられる幅広いイスラーム覚醒をその基盤としている。21世紀の世界においてイスラーム地域はいかなる役割を果たし、またどのような意味をもつのか。この重要な問いに答えるには、現代のイスラーム復興の諸問題を総合的に理解することが必要であろう。

 そこで、われわれの研究班は、現代イスラーム思想の諸潮流とこれと密接に結びついた政治社会運動、冷戦後の国際関係においてイスラーム地域の占める位置と役割、思想と政治・社会とを結ぶイスラーム法の現状と動態、これらを地域間比較の手法を用いながら総合的に研究することによって、現代文明とイスラームとの複雑な相互関係を解明することをめざしたい。研究班1を構成する3つの研究グループは、今年度それぞれ以下の課題を設定している。

・aグループ「現代イスラームの思想と運動」は、近現代の主要な思想家の思想をその原典から読み解く作業を進めるとともに、それと密接に結びついている現代のイスラーム復興運動の特質を地域間比較の方法を用いて検討する。そのさい、歴史的な展望を欠かさず、また個々の思想や運動の地域を越えた共振作用にも留意したい。

・bグループ「国際関係の中のイスラーム」は、現代の国際社会においてイスラームはどのように位置づけられるのかを、国際政治の枠組みの中で明らかにしていくことを目標とする。具体的には、国際紛争におけるイスラーム政治運動の位置づけ、地域ブロック化と「イスラーム」の関係、反体制運動としてのイスラーム運動と国際社会の関係などの諸問題を内外の中東・中央アジア・東南アジア研究者(とくに政治学・現代史・地域研究の研究者)を交えた研究会を開催して検討する。

・cグループ「イスラームの法と社会」は、現代のイスラーム国家において、古典的な規範がほぼそのまま適用されている唯一の領域、家族法に注目し、古典的なイスラーム家族法の体系を把握しながら、現代の立法との異同を確定するための基礎作業を行う。そのために国内の人類学者や歴史学者による報告を中心に研究会を開催し、古典的な家族法と現代の立法との間の異同がいかにして生じたのかを分析する作業を進める。

 研究班全体としては、個々の研究グループの活動を有機的に結びつけ、また地域間比較を行うために、今年度も合同研究会を開催する。今年度は国際交流基金の支援(日欧国際会議助成)を得て、国際ワークショップ Intellectuals in Islam in the 20th Centur: Situations, Discourses, Strategiesの開催を予定している(2000年10月13-15日、ホテルJALシティ四谷)。これには、アラブ地域、トルコ、イラン、バルカン、中央アジア、南アジア、中国などを専門とする研究者が参加して、20世紀ムスリム知識人について縦横に議論することになっている。