1班bグループ研究会報告


「中央アジアにおける国際関係とイスラーム」研究会

開催日:2001年3月10日(土)
場所:北海道大学スラブ研究センター4階420号室

文責:宇山智彦




 本研究会は、1班bグループの中で中央アジアを研究している分担者・協力者の最近の成果を発表するために企画され、共通のテーマに関する討論というよりは、各報告のテーマに関する専門的な議論が行われた。札幌だけでなく東京や仙台、大阪からも参加者が集まり、盛況であった。


報告1:岩崎一郎(一橋大学)
 「ソ連中央統計局内部資料に基づく中央アジア産業発展史」


 本報告は、一橋大学経済研究所が1995年から5年間にわたって実施した「アジア長期経済統計データベース・プロジェクト」の一環として、報告者らがロシア経済文書館で行った作業をもとにしたものである。成果の中間的なまとめは、同研究所から2000年に発行された2冊のディスカッションペーパー(『ソ連中央統計局内部資料が示す中央アジア工業発展史:1930-50年代を中心に』および『ソ連中央アジア地域長期農業統計:1913-52年』)で既になされているので、当日の報告では、文書館利用のこつや、しばしば基準が変わる経済統計を長期にわたって分析する際の問題点についての話が中心となった。報告者らが文書館で集めた膨大な資料は、データの精度や詳しさという点で、ソ連時代に出版された公式統計を遥かに上回っており、これを利用した本格的な研究の進展が期待される。


報告2:輪島実樹(ロシア東欧貿易会)
 「中央アジア諸国の貿易構造の変化:対ロ貿易構造を中心に」


 報告者は、中央アジア諸国にアゼルバイジャンを加えた6カ国とロシアとの貿易の統計を広く集め、総額や品目の変化を精査し、各国ごとの特徴と変化を明らかにした。報告者は、「貿易パートナーとしてのロシアの重要度が高い国は、他の局面においても親ロ的選択を行うと言えるか?」という問題を立てたが、実際には、貿易をCIS外に意識的にシフトさせたウズベキスタン以外、外交方針と貿易相手の間に明確な相関があるとは言えなさそうだ。むしろ、カザフスタンの原油、クルグズスタンの金(輸出)と燃料(輸入)、タジキスタンのアルミ(ロシアとの連関の中断と復活)、トルクメニスタンの天然ガスといった主要品目がどこに売れるか(どこから買えるか)という事情に左右されている面が大きい。ロシアとの貿易品目が一貫性なく変動しているのに総額は安定しているアゼルバイジャンのように、分かりにくいケースもある。


報告3:宇山智彦(北海道大学)
 「タジキスタンの内戦・和解・国家建設:出張報告」


 本報告は、1班海外調査(2001年2月3日〜22日)の成果の中間報告である。タジキスタンは1992年から97年まで内戦を経験し、その後も不安定な状態が続いたが、ここ1〜2年で治安がよくなり、安全に現地調査できるようになった。報告者は、タジキスタンの下院、外務省、戦略研究センター、科学アカデミー、地方(州、市、地区)行政府などの関係者にインタビューし、文献資料を集めた。調査内容は、内戦の歴史、和解の歩み、政治体制、地方行政、イスラーム運動、国際関係にわたる。内戦と和解のプロセスについては、関係者がかなり機微にわたることまで話してくれた。現在の政治に関しては、これまで国外の観察者はその不安定さを常に指摘してきたが、南部出身の新勢力と北部出身の旧勢力、それに旧反対派が手を結んで、地方の末端までコントロールする現状維持システムは、それなりによく機能している。政治へのイスラームの直接的影響は弱いが、政治家やイスラーム運動家のタリーカとの結びつきは予想以上に強いようだ。


  なお、今回の研究会は北海道中央アジア研究会との共催であり、各報告のレジュメは、同研究会のホームページ(http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/casia/)に掲載されている(岩崎報告と宇山報告は掲載済み、輪島報告は近日掲載)。



研究会活動報告一覧へ

1班ホームページへ