海外出張報告

by 伊藤弘子

伊藤弘子(愛知女子短期大学)
目的:イスラーム家族法に関する資料収集
渡航先:デリー、ボンベイ
期間:2000年8月16日〜9月14日)

報告:
「インドにおけるイスラーム家族法 -婚姻、離婚法を中心に-」
 インドでは、イギリスによる間接的および直接的統治時代を通じて人の地位、身分のみならず婚姻、離婚、親子関係、相続、遺言などの分野について各当事者のパーソナルローを適用する原則が採用され、ムスリムにはイスラーム法が適用されてきた。しかし国王の裁判所と東インド会社の裁判所においてイギリスのコモンロー、エクイティに偏重した判断ないしパーソナルローの修正がなされたために、インドのイスラーム法はアングロ・イスラーム法ないしアングロ・ムスリム法と呼ばれる伝統的なイスラーム法とは異なる法体系へ変容していった。
 また19世紀半ばから刑法、証拠法などについてイギリス法にならった制定法が施行され、これにともなって徐々にイスラーム法のパーソナルローとしての適用範囲が制限された。奴隷制の禁止、相続権者の範囲拡大、幼児婚の禁止などはイギリスによる統治の比較的早い段階から取り組まれ、20世紀になるとシャリア法、ムスリム婚姻解消法、ムスリム(女性の離婚に関する権利保護)法などが制定された。
 インド憲法では統一私法の制定施行をうたっているが、さまざまな引き合いから、パーソナルローを現状のまま置き、世俗法と並存させたうえで、個々の近代・現代化をはかろうというのが現状のようである。イスラーム法については、イギリス統治時代にイギリス法原理によって歪められたイスラーム法の解釈を正したうえで、理想的なイスラーム法へと純粋化をはかろうとしていると思われる。



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